Micael Dahlen & Helge Thorbjørnsen著「More Numbers Every Day: How Data, Stats, and Figures Control Our Lives and How to Set Ourselves Free」

More Numbers Every Day

Micael Dahlen & Helge Thorbjørnsen著「More Numbers Every Day: How Data, Stats, and Figures Control Our Lives and How to Set Ourselves Free

ソーシャルメディアやウェアラブルテクノロジーを通してあらゆる物事が数字に換算され蓄積される風潮の弊害を指摘する本。著者らは北欧の経済学者で、まさにあらゆる物事を数字に換算する専門分野のなかから、そうした行為によって失われるものがあることを訴える。出版されたのはπの日である3/14。

本書の序盤は数字に関する興味深い心理学的・人類学的な話題が続く。人々が偶数を女性、奇数を男性と関連付けていることや、文化によって数えられる数字の上限が異なること、キログラムを使う国とポンドを使う国では重量挙げの選手がぶち当たる記録の壁が違うことなど、数字がただの数字ではなく、社会的・文化的な意味を帯びていることが多数の例を通して紹介される。

数字についてのおもしろい豆知識の本かな、と思いはじめたところでしかし本書は方向転換し、あらゆることを数値化することの弊害についての議論がはじまる。レストランや大学教授の評価から「いいね」やフレンドの数まで、なにかを数値化することはそれらを没個性的で比較可能なものに貶めてしまう。いろいろな異なる系統のレストランの味は直接比べられるものではないのに、星いくつ、という形にしてしまうとどちらがどれだけ良いのか比較できてしまうし、「いいね」を稼ぐ快感がその題材となる体験そのものの快感を代替してしまい体験そのものの楽しみを失わせてしまう。金銭的インセンティヴが本来わたしたちが持っている内的動機を毀損することはこれまで多数の経済学者たちによって指摘されてきたが、ソーシャルメディアの「いいね」やフレンドの数などの数値も一種の通貨であり同じ問題を起こしうる、という指摘。

部分部分で本書の議論の実例として挿入される著者自身の個人的なエピソードもおもしろく、短いながらも数値化の弊害を指摘しそこから距離を取るアドバイスをきっちりしているいい本。あと著者たちがratemyprofessorみたいなサイトで大学教授に点数をつけるのはマジやめてくれっていうのはほんと分かるし笑える。