Matthew Ball著「The Metaverse: And How It Will Revolutionize Everything」

The Metaverse

Matthew Ball著「The Metaverse: And How It Will Revolutionize Everything

メタバースな本。著者によるメタバースの定義をDeepLに翻訳お願いしたら「リアルタイムでレンダリングされた3D仮想世界を、大規模かつ相互運用可能なネットワークで、事実上無制限の数のユーザーが同期的かつ持続的に体験することができ、個々の存在感や、アイデンティティ、履歴、資格、オブジェクト、通信、支払いなどのデータの継続性を持つことができます」となったのだけれど、まあだいたいニュアンスは分かると思うw

著者は来るメタバースの時代を、初期のインターネットの時代、iPhone 3G以降のモバイルの時代に次ぐテクノロジーと社会の新たな時代と位置づけて、それがもうすぐ来るように言うのだけれど、著者自身が語る「メタバースが一般化するための技術的・社会的・法的な条件」が厳しすぎて、想像できない。イメージとしては「セカンドライフ」や「あつまれどうぶつの森」「フォートナイト」「マインクラフト」などのゲームがもっと広くなってもっと多くの人が交流できるようになってもっと自由になってもっとほかのメタバースと行き来したり同じアバターを使えるようになる(著者はメタバースは1つではなく複数あって良いが、相互運用できなければいけない、と考えている様子)、的な感じだけど、いまあるゲームはレンダリングやネットワークの遅延が目立たないようにその仮想世界内でいろいろ工夫して独自の物理法則のようなものがある世界として作ってあるのであって、参加するユーザや自由度が増えたり相互運用できるようにするとなると、どうしても追いつかなくなる。

技術的な条件だけでなく、社会的・法的な条件も厳しい。著者がメタバース「的な」仮想世界としてあげるゲームのほとんどはアプリ内で売買されるアイテムをアプリ外に持ち出して別の仮想世界で使えるようにはしていないし、する動機もない。相互運用させないほうがユーザを囲い込んで儲けることができるし、ほかの仮想世界のアイテムを持ち込ませてもなんの得もない。アプリ内課金の仕組みや分配をめぐって「フォートナイト」を締め出したアップルなどプラットフォームを握っている企業も同じ。メタバースを実現させるには政府が介入してオープンにさせるしかなさそうだけど、現時点ではゲーム業界だけの話でしかないのにそこまでできるのかどうか。課金アイテムの所有権はブロックチェインで管理できるよって言われても、詐欺と海賊版の温床のようにしか見えない。

メタバースが「全てを革命する」とサブタイトルで宣言しているわりに、どのように変わるのかの議論は少なめ。まあインターネットやスマホが普及するまえにそれらがなにをもたらすのか予測するのは難しかっただろうから予測できなくても仕方がないのだけれど、例としてあげられているのがショボすぎる。近い将来オンライン会議はメタバース内で行うようになりますって言っても、もう既にやろうと思えば「あつ森」の中でだって会議くらいはできるわけだし、としか思えない。コロナ危機によって子どもたちがzoomで授業を受けるようになったけれど同じ教室で受けるのに比べて質が下がった、メタバースなら同じ教室にいるのと同じ体験ができる、というのもかなり怪しい。最後にメタバースによってセックスワーカーはより安全に働いて儲けることができるようになる、というのだけれど、距離的な制約がなくなるとより過酷な競争に巻き込まれて大多数のセックスワーカーは困ると思う。

ま、ゲーム業界についての本としてはそこそこおもしろかったよ。わたしの知り合いにも、中学生の子どもがマインクラフトかなにかよくわからないゲームでなにかよくわからないものを作ってよくわからないけどなんか売ってる、みたいな、いやあんた親ならもうちょっと知ってろよって思う話を聞いたことがあるけど、ようやく理解できたようなできなかったような。