Mariann Edgar Budde著「How We Learn to Be Brave: Decisive Moments in Life and Faith」

How We Learn To Be Brave

Mariann Edgar Budde著「How We Learn to Be Brave: Decisive Moments in Life and Faith

2025年1月に二度目の就任式を終えたドナルド・トランプ大統領やJDヴァンス副大統領、トランプが指名した閣僚候補者らが参列したワシントン大聖堂での礼拝で、性的マイノリティや移民・難民への慈悲と思いやりを求める説教を行った米国聖公会ワシントン主教が2023年に出版した本。いま話題なので読んでみた。

著者が政治的な発言により世間の注目を集めたのは今回がはじめてではない。そもそも本書が出版された背景には、2020年にホワイトハウスの周辺でもブラック・ライヴズ・マターを掲げるデモが展開されるなか、トランプが軍を動員して平和的なデモを鎮圧、その直後に国防長官らを引き連れたトランプがホワイトハウスから徒歩でデモ隊が排除された広場を通って著者が主教を務めるワシントン大聖堂の前で聖書を掲げて記念撮影を行った事件があった。トランプが黒人の命を守ろうとする市民たちを暴徒と決めつけ強権的に弾圧しただけでなく、教会になんの連絡もないまま勝手にパフォーマンスの舞台や道具として教会や聖書を利用したことに憤慨した著者は、さまざまな宗派の宗教指導者たちと協力してトランプの行為を批判する声明を発表し、世間の反響を呼んだ。これをきっかけに米国聖公会だけでなくさまざまな宗派や宗教以外の団体などから講演に呼ばれるようになった著者が、いざというときに勇気ある行動を取るための秘訣を語ったのが本書だ。

本書が強く訴えるのは、勇気ある行動とは日々の決断や行動の積み重ねの結果であり、勇気ある行動だと人々の注目を集めたその時だけのことではないということだ。人は自分が何を大切にしているのか、それを守るためになにをするのか、なにを諦めるのか、いつ立ち上がるのか、常に決断を繰り返している。多くの場合そうした決断が大きな成果を生むことはないし、うまくいかなかいことも多々あるが、そうした決断や行動の積み重ねなくして大きなことを成し遂げることはない。トランプ支持者からの攻撃や脅迫に晒されながら自身の信仰と人生からそうした教訓を語り人々を勇気づけようとする著者の話は、信仰を同じくする人だけでなく異なる信仰を持つ人や信仰のない人にも伝わるはず。