Marcel Dirsus著「How Tyrants Fall: And How Nations Survive」
タイトルの通り、独裁者がどのようにその地位を追われるかについて計量的に研究した政治学者による本。
独裁者というのも楽じゃない。うまいこと周囲に利益を分配したり恐怖を振りまいたりしてバランスを取らないと軍や側近に寝首をかかれかねないし、民衆のデモや一斉蜂起の対応を間違えたらやはりクーデターを起こされたり経済制裁を受けて部下に分配できる利益が消失して部下に見放されたりすることも。いくら独裁者でいることに疲れても周囲に弱みは見せられないし、平和的に引退するのは難しく、権力を明け渡したあと自分の身が安泰だとは限らない。下手に後継者なんて作ると下剋上される危険もある。海外に逃亡しようにも独裁者を受け入れてくれる国は減っており、国際情勢の変化や世論の動きを受けて追い出されることも少なくない。
どんなひどい独裁を敷いた権力者も、結局いつかはその地位を追われるし、そうでなくてもいつかは死に、国も国民も存続する、というのはある意味勇気づけられる内容なのだけれど、古典的な個人独裁と中国共産党のような一党独裁体制ではまた話が違い、個々の権力者が追いやられても独裁体制は継続する確率が高いというのも確か。まあその中国共産党による支配だっていつかは終わるのだろうけど、それを言い出すと長期的にはなんだとか確かケインズせんせーが言ってた。
独裁者が次々と破滅していくのを読むのが単純に楽しいというわたしの悪趣味はともかくとして、独裁者がどのようにして転落したかを詳しく知ることは、独裁者や権威主義的な政権とこれから戦う人たちがどう戦えばいいのかという教訓を学ぶことにもなるので、権威主義的な政治が世界に広がるなか本書はとても重要な本になるような気がする。イヤな未来だけど。