Leah Thomas著「The Intersectional Environmentalist: How to Dismantle Systems of Oppression to Protect People + Planet」

The Intersectional Environmentalist

Leah Thomas著「The Intersectional Environmentalist: How to Dismantle Systems of Oppression to Protect People + Planet

タイトルのとおりだけど、インターセクショナルな環境運動を提唱する本。インターセクショナリティってなんなの?とか、LGBTとかPOCってどういう意味?といった基礎的なことから説明していくのでただでさえ短い本の半分くらいは前置きみたいな感じになってしまうのだけれど、後半では環境破壊のコストが途上国の人たちや先進国内の非白人や貧困層など社会的に不利な立場に置かれている人たちに不均衡に押し付けられるという具体的な例をあげながら、どうして環境破壊は社会的公正の問題であるのか説明し、社会的公正に基づいた環境運動の必要性を主張する。

アメリカの環境運動は多くの場合白人中流層によって担われていて、経済的な制約などから環境負荷の低い生活に移行できない人たちを倫理的に非難したり、あるいは自分たち白人中流層が住んでいる地域から公害を巻き起こす工場や施設を追い出すことによってそれらを貧しい地域に押し付けたりしている。たとえば気候変動によって被害が拡大したと考えられている、ニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナでは、もともと地価の安い土地に住んでいた黒人たちが多くの被害を受けたし、にもかかわらず支援は被害の少ない地域に集中した。またミシガン州フリントの水道汚染問題も貧しい黒人が大多数を占める住民たちの命や健康より政府の収支が優先された結果巻き起こされたものだった。

若いころから環境問題に関心を抱き環境運動に参加していた著者は、そのなかで黒人女性として孤独を感じ、主に非白人によって担われている環境正義(environmental justice)の運動について学ぶとともに、「Intersectional Environmentalist」のミームをソーシャルメディアではやらせたりしてほかの非白人環境活動家たちと繋がることができた。そして自分が属するコミュニティだけでなく、アジア系や先住民系、クィア、障害者などほかのコミュニティの環境活動家たちから学び、それぞれのコミュニティが直面している環境危機について説明しているの。それらが別個のコミュニティとして語られている(たとえば人種とセクシュアリティの交差、という形では取り上げられていない)のはインターセクショナリティとしてはどうなのという気がするのだけれど、環境問題を社会的公正の問題として考えるための導入の本にはなっていると思う。