Laura Coates著「Just Pursuit: A Black Prosecutor’s Fight for Fairness」

Just Pursuit

Laura Coates著「Just Pursuit: A Black Prosecutor’s Fight for Fairness

連邦検察官を努めた黒人女性法律家が、検察官として犯罪被害者の救済と加害者への適切な処罰を模索しつつ、司法の現場で目撃したさまざまな不公正や理不尽な現実を生々しく綴った本。正義の実現を目指しつつも、その努力が逆に不正義をもたらしてしまう様子が次々と描かれ、そのなかでもがき抵抗しようとする著者の孤独な戦いと、たまに起きるささやかな救い。制度化された人種差別など刑事司法制度の問題点を指摘する本はたくさん読んできたけれど、この本ほど強烈な印象を受けた本はなかった。

窃盗被害者として証言を求められた人が20年前に国外退去命令を受けた非正規移民であり法廷に出席すると逮捕・追放されるとわかった著者が、逮捕を止めようとあれこれ手を尽くすけれどもそれが逆に上司や同僚の注目を集めて確実に逮捕されるようになってしまった話。白人の同僚に「おもしろいものを見せてやる」と言われてついて行ったら若い黒人男性の尋問で、同僚がわざと存在しない人物の名前を挙げて「この人物について知ってることを言え」と恫喝した話。女性に対する性暴力の罪で逮捕された黒人男性が自分はやってない、人違いだと主張するものの裁判官をはじめ誰もかもが相手にせず、著者が写真を調べてみたら逮捕状が出ている人は同姓同名の黒人男性という以外は背丈その他が似ても似つかない別人だったことが判明した話(その男性は自分が性暴力犯でないことを主張しつつ、何かを隠している様子だったためにさらに疑いをもたれたのだけれど、実はゲイでそれを周囲に知られたくないと思っていた)。殺人で有罪判決を受けた若い黒人男性の裁判で、息子を殺された黒人の母親が「自分の息子に続いてまた別の黒人の子どもの命が長期刑によって失われる」ことに絶望する話。これら全部で15のエピソードが語られる。

著者はそれぞれのエピソードにおいて、気持ちのいい解決は与えてくれない。最終的にどうなったか説明しないまま終わるエピソードも多い。彼女は検察官として、被害者の救済と加害者の適切な処罰という刑事司法制度の目的そのものは信じていて、それを実現しようと努力するも、制度と人間のそれぞれの弱みが重なって理不尽な結果がもたらされる現実の歪みが浮き彫りにされる。法制度に基づいた正義の実現の難しさ、それに近づこうとすることがさらに不正義を帰結するやるせなさをわかりやすく伝えてくれる本。いま周囲に絶賛お勧め中。