Ketanji Brown Jackson著「Lovely One: A Memoir」

Lovely One

Ketanji Brown Jackson著「Lovely One: A Memoir

バイデン大統領により任命され黒人女性として初の連邦最高裁判事になったケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事の自叙伝。生い立ちからキャリア、家庭生活、そして最高裁判事になるまでが描かれる。

フロリダ州の黒人家庭で、小学校を卒業することもできなかった祖母や人種隔離政策のなか育ち公民権運動によって新たに生まれた機会をつかんで中流階層に登り上がった両親の愛情を受けて育てられた著者。両親はもともと教師で、著者が幼いころに父親が弁護士となり、著者に法律への興味が生まれる。子どものころから学校での勉強に励むことの大切さを教えられ好成績を残した著者は、祖母をはじめとして自分と同じ学習機会を与えられていない人が多くいることも学び、他人の無学を笑うことを厳しくたしなめられる。ハーヴァード大学に進学してマイケル・サンデルの「正義」の授業に強い影響を受け、またのちに結婚するボストンの名家出身の白人男性と出会う。

この彼がとにかくいい人で、名家出身の白人のお金持ちなのに家族も御曹司が黒人女性と結婚するのを支えてくれるし、著者に内緒で彼女に求婚する許可を求めに行った彼に著者の両親も「むかしならあなたみたいな人がうちの家に来ることも考えられなかったけれども、時代は変わった」と支持してくれて、なにそれ最高じゃん、と思うけど、まあもちろん仮に親族に反対があったとしてもそんなことは書けないよなあ。自閉症スペクトラム障害のある長女と、親が常に姉のことを心配しているせいで自分は相手にされていないと感じがちな次女に対して、法律家の著者と医学者の夫はそれぞれ自分の成功体験から「諦めずに頑張れば成果は出る」という信念をいつの間にか押し付けてしまい、みんながみんな頑張ればその分成果を得られるわけではないこと、人々の感じ方や認知には多様性があり学校の成績や得意な学び方にかかわらず全ての人が尊重される必要があることに気づく。

著者が法律家として携わったさまざまな事件とそこから学んだことがどう彼女の子どもや親戚の人生に関係しているかや、自閉症スペクトラムのある子どもの親として理解のない学校とやりあった経験(まあお金に余裕があるから一般の家庭よりはだいぶマシなんだけど)など、悩みや困難、サンデルの授業を受けていらい向き合ってきている正解のない問題を含め、興味深い話がたくさん。ハーヴァード・ロースクール及びハーヴァード・ロー・レビュー誌の先輩でありのちに大統領として著者をワシントンDC巡回区控訴裁判所判事に任命したバラック・オバマ及びミシェルとの出会いなどにも触れられているし、著者を最高裁に指名してくださいと娘が大統領にあてて書いた手紙とかめっちゃかわいい。はじめてアフリカを訪れた際、パスポートに書かれたケタンジ・オニカ・ブラウン・ジャクソンという名前を見た係官が「ケタンジ・オニカ?」と聞いてきて、自分はアメリカ生まれだけど祖母がアフリカ出身なんですと答えて「故郷にようこそ」と言われた話とか泣きそう。

あと表紙写真でも見られる、彼女がやってる激小の髪のロックス、サンディエゴ州立大学のアフリカーナ・スタディーズ名誉教授で起業家のジョアナ・コーンウェルズさんが「シスターロックス」として広めているナチュラル・ヘアのパターン(それ自体ヘアスタイルではなく、ロックしたうえでさまざまな形に柔軟にスタイルできるのが特徴)だということを初めて知った。超似合っているしカッコいい。