KB Brookins著「Pretty: A Memoir」
テキサスで育った黒人でトランスマスキュリンなノンバイナリーの著者によるエッセイ集。可愛く見られたいと願っているのに「可愛さ」が白人性や女性性と結びついているために近づけず、それと対極的な覇権的男性性を体現してしまい周囲の人を傷つけてしまった反省のもとに書かれた表題のエッセイほか、自伝と政治的な分析を絡み合わせた短めのエッセイや詩が多数掲載されている。
ほかにも気になったエッセイは、女性に見られたくないのに大きな胸が注目されてしまうのに悩んでいたときにバインダーと出会った話や、白人のトランス男性が「男性として見られるようになったら周囲が自分の意見を聞いてくれるようになった」とよく言っているのに対し黒人男性として見られるようになった著者は周囲の人たちに脅威とみなされるようになった話、わざわざ「LGBT歓迎」を掲げるクリニックを探して子宮がん検査を受けに行ったのにトランスマスキュリンでノンバイナリーな著者は歓迎されていると感じなかった話など。全ての意見に賛成するわけではないけれど、トランスと黒人と「女性」とされる身体を持つ人たちの権利がことごとく政治的な攻撃に晒されているテキサスでライター・詩人として活動している著者ならではの視点は参考になる。