Judith Giesberg著「Last Seen: The Enduring Search by Formerly Enslaved People to Find Their Lost Families」
奴隷制度が廃止されたあとのアメリカで、奴隷制において別々に売り払わられたりして離散した家族とのつながりを取り戻そうとしたたくさんの黒人たちのストーリーを、かれらが各地の黒人新聞に掲載した個人広告などの資料を通して語る本。
歴史家によると、奴隷制における黒人家族の離散は例外ではなく常態であった。当時、奴隷とされた人たちは法的に結婚を認められず、生まれた子どもも所有者のものとされたが、しかし子どもは労働力や資産として価値があるので多くの所有者たちは奴隷の男女が事実上の夫婦となることを許し、あるいは自ら奴隷とされた女性をレイプすることで子どもを産ませ、その子どもをかれらに育てさせた。このように奴隷とされた人たちは家族を形成していったが、事業に失敗するなどしてまとまった資金が必要となると奴隷所有者たちはかれらを売り払ったし、借金の担保として取られたり、遠方に住む親族のあいだにバラバラに遺産相続されるなどして、こうした家族は簡単に引き離された。
また、地下鉄道の助けを借りるなどして逃亡した奴隷たちの中には、家族で一緒に逃げようとしたけれど一部だけ捕まって連れ返されたり、自由になったらさらなる助けを得て戻ってきて次こそ家族全員を救い出すことや、財産を築いて家族を買い戻すことを夢見て自分だけ逃亡したりした人たちもいた。さらに南北戦争のなかで、連邦軍(北軍)は奴隷からの解放を約束して黒人男性たちにプランテーションから逃亡し志願兵として連邦側に加わることを呼びかけたが、その後さまざまな事情によって連絡が途絶えたり帰って来られなくなって戦争に行けなかった女性や子どもたちとの関係が途絶えてしまった人たちもいた。
北部の白人たちが伝える奴隷制の歴史はリンカーンによる奴隷解放でハッピーエンドを迎えて幕を閉じるが、奴隷制から自由の身となった黒人たちが最初に行ったのは、奴隷制によって連絡が取れなくなった家族の捜索であり、それを後押ししたのが当時各地で出版されていた黒人新聞だった。かれらの多くは文字の読み書きができなかったが、それでも周囲の人の協力を得て新聞に「この人を知りませんか」という広告を出し、全国の黒人教会では毎週そうした多数の広告が読み上げられた。著者はそうした広告を5000近くも過去の新聞から収集し、現代の黒人たちが自分のルーツにつながる資料を見つけることができるアーカイヴを設立・運営しており、本書はまさに彼女にしか書けない内容。
本書では資料が多く残っている特定の家族についての詳しいストーリーも追っているが、残念ながら新聞広告を出した結果として実際にどれだけの人が家族と再会することができたのかは分からない。しかしこうした広告は奴隷制が終わってから数十年間、奴隷制からの解放をリアルタイムで経験した世代のライフタイムのあいだずっと確認されており、かれらがどれだけ家族との再会を望んでいたのか、そして奴隷制による家族離散が奴隷制が終わってから何十年ものあいだ人々の人生に影を落としてきたのか分かる。
一方著者は、北部の白人メディアがときおり「離散していた解放奴隷家族の再会」をいまでいうところのヒューマン・インタレスト・ストーリー、すなわちただの「ほっこりくるいい話」、そして「自分たち北部が正しかったと自慢できる話」として消費することで、奴隷制をとっくに終わった過去のものとして忘却することに加担したことを指摘する。南部と奴隷制を美化し北部の専横を批判する「ロスト・コーズ」の歴史観と、良心的な白人たちが奴隷制の悪を滅ぼしたとする北部白人の歴史観は、奴隷解放の歴史から黒人たちを抹消しその後も消えない奴隷制の影響を見ようとしない点で共通している。
わたしはこれまで奴隷制についての本を数十冊は読んできたけれども、まだまだ知らない話、どうしてこんな重要なこと知らなかったんだと唖然とするような話に出会うことが多々あり、本書で紹介されていたストーリーもそれ。黒人コミュニティではいまでも家系図の調査に対する関心が強いけれど、その背景についてより良く理解できたと思う。