Juanita Tolliver著「A More Perfect Party: The Night Shirley Chisholm and Diahann Carroll Reshaped Politics」

A More Perfect Party

Juanita Tolliver著「A More Perfect Party: The Night Shirley Chisholm and Diahann Carroll Reshaped Politics

1968年に黒人女性としてはじめて連邦下院議員に当選し、1972年の大統領選挙に民主党の指名を求めて出馬したシャーリー・チザムの歴史的な選挙運動を、彼女のために伝説的女優・歌手ダイアン・キャロルが自宅で開いたパーティに集まったさまざまな芸能人や実業家、活動家や将来の政治家たちに注目して綴る本。

非白人として、そして女性として歴史上はじめて二大政党の大統領候補になろうとしたチザムは、白人エスタブリッシュメントだけでなく黒人男性政治家たちからも妨害され、民主党主流派への影響力を失うことを恐れた白人フェミニストたちからの支持を得るのにも苦労した。また民主党全国委員会は選挙制度を彼女に不利なようにしたり、メディアが討論会から彼女を排除して参加させないなど、徹底して彼女の選挙戦を押さえつけようとした。その一方、ヴェトナム戦争への徴兵に反対する若者や(憲法修正26条によって選挙参加年齢が18歳に引き下げられた直後だった)、それまで選挙に関心がなかったブラック・パンサー党のメンバーたちから熱狂的な支持を集め、それまでのアメリカには存在しなかった新たな支持層を掘り起こし、新たな社会運動として選挙運動を進めていった。のちに民主党の連邦下院議員として影響力を持ったバーバラ・リーやマクシン・ウォーターズらの黒人女性たちもチザムの影響により政治の道へ進んでいった。

新たな社会運動だけあって、ダイアン・キャロルが開いたパーティに集まった人たちは、それまでなら決して同じ場所に集まることがないような人たち。芸能人、実業家、活動家らさまざまな人たちが交流し、そのなかにはわたしでも名前を知っている有名人がたくさん。そしてかれらは知名度を利用してメディアでチザムへの支持を呼びかけたが、そういった選挙活動は当時はまだあまりなかった。彼女の訴える政策はヴェトナム戦争の停戦だけでなく若者や非白人、女性の権利を拡張し社会をより公平にしようとするもので、のちにバーニー・サンダースが受けた仕打ちより何倍も民主党主流派に攻撃されたのも分かるような。

チザムが直面したさまざまな障壁は、のちにバラック・オバマやヒラリー・クリントン、そしてはじめて実際に主要政党の大統領指名を受けたカマラ・ハリスが経験したものと同じだが、彼女が選挙に出たのが黒人が全国的に選挙に参加できるようになって十年も経っておらず、女性が自分の名前で家を借りたり銀行口座を作るのにも苦労していた時代であることを考えれば、どれだけ勇気がいったことか分かる。そういった時代に、エスタブリッシュメントにすり寄るのではなく真っ向から対決し、新しい民主政治の可能性を切り開いたチザムはカッコよすぎるし、ブラックパンサーやリー議員、ウォーターズ議員らがインスパイアされたのも分かる。いまアメリカの政治は絶望的な状況だけれど、チザムや彼女の周囲に集まった人たちから勇気をもらいたい。