Jonathan P. Higgins著「Black. Fat. Femme.: Revealing the Power of Visibly Queer Voices in Media and Learning to Love Yourself」

Black. Fat. Femme.

Jonathan P. Higgins著「Black. Fat. Femme.: Revealing the Power of Visibly Queer Voices in Media and Learning to Love Yourself

ブラック(黒人)で、ファット(太っている)で、フェム(≒女性的?)なノンバイナリー寄り男性の著者が、若かった頃の自分に贈りたい本。

著者はエホバの証人の信者のコミュニティで育てられ、早いうちから「男らしくない」ことが問題視され無理やりスポーツをやらされたり「他の男の子に悪い影響がある」と仲間はずれにされたりしてきた。教会によって一般のエンターテインメントメディアは罪に繋がるとして避けるように言われていたけれど、著者はシングルマザーで忙しい母親の目を盗みテレビに救いを求める。「ウィル&グレイス」をはじめとする1990年代のメディアを観た著者は、大学に行き親元を離れれば自分もゲイ・コミュニティを見つけられる、という希望を抱く。

しかし実際に大学に進学した著者は、太った女性的な黒人男性である著者はテレビに出てくるハンサムな白人のゲイ男性のようにうまくは生きられないという事実を突きつけられる。当時の出会い系サイトで見かけた多くのゲイ男性たちのプロフィールには「黒人NG、太っている人NG、フェムNG」と書かれており、それを見て著者は絶望を感じる。それだけでなくゲイ専用のサイトにアカウントがあることがなぜか教会のメンバーにばれてしまい(発見したやつ、絶対隠れゲイだろ)、長老に呼び出され教会から追放される。

そういった状況にあった著者を救ったのは、やはりエンターテインメントだった。「ル・ポールのドラァグ・レース」は最初のうち「毒舌なジャッジ」という体裁で参加者の体型に対する白人基準の厳しい批評がされたりトランス女性に対する差別用語が頻繁に使われたりしたため避けていたけれど、そのうちそうしたボディ・シェイミングに真っ向から対抗する参加者が出てきたし(本書に序文を寄せているラトリス・ロイヤルもその一人)、「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル」にもブラック・ファット・フェムな参加者が登場して堂々とした態度を見せつけたことで、著者は自分もありのまま生きていいんだと気付かされる。「パリス・イズ・バーニング」や「ポーズ」を通してボールカルチャーにも触れ、著者はだんだん自信をつけていく。

著者はトランス女性ではないけれど、ネイルをしたりハイヒールを履いたりすることもあり、世間の目は必ずしも好意的ではない。人はまず自分を愛するべきだと簡単に言うけれど、日常的にヘイトを向けられながら自己愛を維持するのはとても大変。若かったころの自分自身をふくめ、いまそうして自分への愛を脅かされている人たちに向けて本書は書かれている。