Johanna Hedva著「How to Tell When We Will Die: On Pain, Disability, and Doom」
韓国系アメリカ人でクィア&ジェンダークィアな作家・アーティストであり、障害・慢性疾患やケアについての文章が話題となった著者のエッセイ集。
著者は西洋の神話におけるテーマをクィアや女性、非白人の視点から再解釈する小説を出版してきた作家だが、コロナウイルス・パンデミックによるロックダウンと人種差別に対抗するプロテストが全国に広まっていた2020年に発表した「Sick Woman Theory」において、慢性疾患で多くの時間をベッドで過ごしていた著者が投げかけた「ベッドから起き上がることができないとき、どうやって石を銀行の窓に投げれば良いのか?」という問いや、障害と資本主義との関係についての考察が当時の文学業界やアート業界でバカ受けし、バズりまくった。すぐさま著者は世界中から障害や慢性疾患について語ってくれとか、「Sick Woman Theory」を本にしようという誘いが殺到したが、小説を出したかった著者は困惑。しかしその後も継続的に障害や慢性疾患、ケアする身体とケアされる身体、障害と資本主義、ディスアビリティ・ジャスティスといったトピックについての執筆を続け、その多くが本書に収録されている。
クィアでジェンダークィア・ノンバイナリーでコリアン3世、障害者でニューロダイバージェントでBDSMコミュニティにも出入りしており、スーザン・ソンタグをクィア・ダディと仰ぐ読書家の著者らしく、取り上げている話題は障害は慢性疾患にとどまらずセクシュアリティやジェンダーから文学・アート、老いと死、脱植民地主義、精神疾患、依存症のある母との断絶など、さまざまなテーマが組み合わさり深め合ってどこまでいっても底が見えてこなくて、これはもう知性と教養に嫉妬するしかない。ソンタグ論もおもしろいし、読んでおいて間違いないと思う。とりあえず誰か、Sick Woman Theoryだけでも日本語に翻訳しませんか?(他人任せ)