Joe Conason著「The Longest Con: How Grifters, Swindlers, and Frauds Hijacked American Conservatism」

The Longest Con

Joe Conason著「The Longest Con: How Grifters, Swindlers, and Frauds Hijacked American Conservatism

第二次大戦後のマッカーシズムから現代のトランプまで、アメリカの保守主義が金銭的利益を目的としてヘイトや陰謀論を撒き散らす詐欺師やそれに近い人たちに乗っ取られていった歴史を政治ジャーナリストが綿密に綴った本。

戦後の保守・極右運動のなか、ジョセフ・マッカーシー上院議員の筆頭代理人として「赤狩り」の先頭に立っていたロイ・コーンやジョン・バーチ・ソサエティ周辺の人たちなどは、共産主義や黒人運動の危険を煽ることで不安と恐怖に駆られた一般市民から多額の寄付金を集められることに気づく。かれらはこれをシステム化させ、寄付金を集めるマシーンを作るとともに、そこからコンサルティングや名簿使用料、その他の名目で多額のお金を抜き取り、最終的にごく一部だけを本来の目的である政治家や政治活動への寄付として提供するようになる。若い頃のトランプを見出し弟子にしたコーンや、そのコーンがレーガン選挙陣営を通して知り合ったロジャー・ストーン、外国勢力に雇われて違法なロビー活動を行っていたポール・マナフォート、国境の壁を建設する費用にするための寄付を募って私物化していたスティーヴ・バノンなど、トランプ周辺にいた人物が次から次へと登場する。トランプ自身、選挙不正と対決すると称して集めたお金の大部分は選挙結果をめぐる裁判その他の活動とは無関係な用途に使っていたり、寄付のお礼にとして支持者に送られるトランプの名前や似顔絵が入った景品の制作費からも名前や似顔絵を使った対価としてトランプ個人にきちんとロイヤリティが支払われている。

コーン、ストーン、マナフォート、バノン、トランプといった極右ビジネス・ビジネス極右とは別に支持者の扇動がお金になることに気づいたのは、ジェリー・ファルウェルやパット・ロバートソンらテレビ伝道師たちだ。かれらはケーブルテレビで大勢の視聴者に向けて奇跡を演じてみせたり同性愛や妊娠中絶による脅威を訴えることで多額の寄付金を巻き上げ、それを自分の資産やビジネスに転化させている。かれらは寄付すれば大病が治るだけでなく、寄付すれば寄付するほど寄付した人に金銭的な幸運が訪れるという神学的にはまったく正当性のない理論を広めた。とはいえテレビ伝道師たちのあいだでの競争は激しく、あるときファルウェルは身の丈に合わない大金を動かして政治に影響力を持とうとした結果借金が嵩み倒産しかけ、教義の内容がキリスト教からかけ離れているとして見下していた統一教会に救済されるという大失態もおかした。また、ファルウェルの息子であり長年妻に若い男性にセックスさせて見ていたことが明らかになったジェリー・ファルウェル・ジュニアや、同性愛者でありAIDSにかかっていたことを隠したまま亡くなったコーンほか、キリスト教的な性道徳を訴えることで寄付金を集めておきながら、同性愛や配偶者以外との性行為などが明らかになって失脚した人がやたらと多い。

このところアメリカでは、民主党・共和党それぞれの政党の支持者が党の候補を選ぶ予備選挙の制度があるせいで、それぞれの党内でより極端な意見を持つ人たちが力を持ち、中間層に訴えかけることができる候補が減っていると言われているが、政治的な理由だけであれば「あまり極端な候補を選んでしまっては本戦で勝てない」という意識によりある程度のブレーキが働く。しかし本書で取り上げられている人たちは、より過激なことを宣伝したり陰謀論やヘイトを拡散するほうが儲かるし、なんなら選挙で大敗しても「不正があった」と騒いでさらに集金できるので、ブレーキが一切効かない。いつも思うけど、アメリカ政治積んでる。

とはいえ著者はこうした傾向が主に保守や右派の側に一般的で、リベラルや左派の側にはあったとしても広がらないことを指摘しており、たとえばロバート・ケネディ・ジュニアははじめリベラルに人気の名前を利用して民主党内で陰謀論を通して集客しようとしたけれどもうまくいかずに結局おもに保守から寄付を集めている。また、左派による寄付金の不正使用の例としてブラック・ライヴズ・マター国際ネットワークが寄付金で不動産を買ったという話をしているけれど、BLMGNは運動に必要な施設だと言っていて不正だという確証はないうえ、もともとそれほど寄付金が集まることを想定していなかった団体に2020年の夏、突如数十億円単位の寄付金が集まってしまってお金をどう使うのが良いかという判断が追いつかなかったように見え、はじめから寄付金を私物化することを狙ったものとはまったく異なる。

ジョン・バーチ・ソサエティなどが宣伝した隠れ共産党員にアメリカが乗っ取られつつある、という陰謀論にはじまり、コロナウイルス・パンデミックをめぐるさまざまな陰謀論やトランプとディープ・ステートによる隠れた闘争を宣伝するQアノン現象、そして「批判的人種理論」や「トランスジェンダリズム」を曲解して子どもの教育を心配する親たちに浸透する最近の動きに至るまで、保守・右派と呼ばれる勢力の中心には人々の恐怖を煽り扇動することで金銭的な利益を得ようとする人たちが入り込んでいる。詐欺的手法が暴露されても「フェイクニュースだ」、逮捕・起訴されても「真実を知られたくないディープ・ステートによる弾圧だ」と称してさらに集金するのだから手が付けられないけど、いつか「あの時代、わたしたちはなんであんなことを信じてしまったんだろう」と振り返ることができるようになることを願いたい。