Jessica Slice & Caroline Cupp著「Dateable: Swiping Right, Hooking Up, and Settling Down While Chronically Ill and Disabled」
障害のある女性二人(異性愛者とクィア)が障害者としてデートする相手を見つけ付き合ったりセックスしたりパートナーになったり結婚したりすることの困難を論じ、それへのアドバイスをまとめた本。親や施設の支配を受け自由にデートできなかったり、出会い方が見つからなくて孤独な思いをしている障害者もいるけれど、実際のところハッピーな恋愛やセックスライフを経験している人もたくさんいるよ!と、そうした当事者たちへのインタビューが多数引用されている。
本書では、出会い系アプリで見知らぬ人と出会うのが普通になった現代ありがちな「(見た目ですぐに分からない場合)自分の障害をどの時点で相手に教えるか」という問題から、ルッキズムの問題、ケアを求めていると思われるのではないかという不安、身体的・精神的な制約があるなか自分をどう守るか、あるいはどうセックスするか(あるいはしないか)、性暴力やドメスティック・バイオレンスの問題、セーファーセックス、その他さまざまなトピックがカバーされている。
インタビュー相手をどう集めたのかよく分からないのだけれど、ハッピーな(あるいは人並みにアンハッピーな)恋愛やセックスライフを経験している人たちを対象としていることもあり、もともと理想化された性規範から疎外されているクィアやキンク(フェティッシュ)コミュニティの人たち、ポリアモリーやノン・モノガミーの人たちの声が多く紹介されている。恋愛とは、セックスとはこういうものだ、という規範は、クィアやキンク、ポリーの人たちを排除しているだけでなく、身体的・精神的な障害によって理想化された通りの関係やセクシュアリティのパフォーマンスができない障害者も排除しており、逆にいうとそういうコミュニティこそ障害者たちが覇権的な性規範に囚われずに自分なりのれないやセクシュアリティを追求する余地を持っている。しかしまあ障害そのものをフェティッシュの対象として欲望して障害者本人をないがしろにする人もいるので、それへの注意は必要。
性暴力やドメスティック・バイオレンスについて章を割いて説明し、自衛の方法について論じながらも「性暴力やDVは被害者の責任ではない」としっかり明記している点は良いと思うけど、被害にあった人に向けたリソースの部分が弱すぎ。いくつかの全国団体のホットラインの番号を列記するだけで、それらの団体がどういうものでどういった人たちを対象としているのか、どういった支援が受けられるのか一切説明されておらず、助けを求める人たち(と、それらの電話を受ける側も)に苦労を強いることになっている。また、ドメスティック・バイオレンス被害について医者らに相談するよう勧めているけど、それぞれの州において障害者はその障害の度合いによっては法的な保護対象とされており、医療従事者は障害者に対する虐待を通報する義務が負わされていることについての説明がない。通報しなくて良いと判断して後で責任を問われたら困るので、一部の医療従事者は積極的に「怪しければ通報」する傾向にあり、本人の意志を無視して勝手に通報されるおそれがある。本人に逃げる意志がないのに勝手に通報することは状況を悪化させ当人をより危険に晒すことが十分ありえるので、そうしたことを説明せずに医者に相談しろと勧めるのは無責任だし有害だと思う。
全体的には難しい問題についてフランクに語られていて良い内容だと思ったのだけれど、性暴力やドメスティック・バイオレンスに関しての部分は専門家(障害のあるサバイバーへの支援を専門にしている人たち)の監修を受けて欲しかった。