Jessica Goudeau著「We Were Illegal: Uncovering a Texas Family’s Mythmaking and Migration」
7世代にわたってテキサスに住む家族を持つ白人女性ライターが、テキサスの歴史のなかで自分の祖先がどういう役割を果たしてきたか辿る本。
著者はテキサスの雄大な自然とオープンで多様性に富んだ文化を愛してきたが、2015年頃にテキサスの社会がより不寛容な方向に変化していることに気づく。ヒジャブを着用している知り合いが罵声が浴びせられ唾を吐きかけられたり、知人のアジア系難民やメキシコ系移民らがヘイトクライムの対象となり、政治家たちもそれを煽るような発言を繰り返すように。
どうしてテキサスが不寛容になってしまったのか、という疑問を抱き調査をはじめた著者がすぐに気づいたのは、テキサスが最近になって不寛容になったというのは事実ではなく、難民や移民、非白人の住民たちは常にヘイトと攻撃に晒されてきたという事実。かわったのはテキサスではなく、多くの難民や移民と知り合いかれらの話を聞くようになった彼女自身だった。
それをきっかけに著者はテキサスの歴史について学ぶとともに、以前親戚から聞いたことがあった、自分の一家がかつて黒人奴隷を所有していた、という話を思い出し、自身の一族についても調査をはじめる。そこで彼女が見つけたのは、当時メキシコ領だったテキサスに奴隷を連れて勝手に移住し先住民を虐殺した白人入植者や、奴隷制を廃止しようとしたメキシコからの独立戦争に参加した武装精力、メキシコ人や黒人に対する超法規的な暴力で恐れられたテキサス・レンジャー、黒人に対するリンチに参加した保安官など、テキサスにおける人種差別の長い歴史の節々でそれに加担してきた先祖たちの記録だった。ほかにも、保安官として多くの黒人たちを殺害しそれを隠蔽した先祖や、保安官選挙をめぐって歴史に残る武力抗争を行った先祖なども。一番最後には、著者の母らに性虐待をしていた祖父の存在にも触れられる。
先住民やメキシコ人、黒人に対する暴力と、最後に触れられる女性に対する暴力は一見無関係だが、そこに著者は共通性を見出す。それは、強者が考える自由のあり方、すなわち自分たちには自らの自由と幸福を追求する絶対的な権利があり、そのためにはほかの誰かを犠牲にしても構わない、という考えだ。奴隷制を守るために起こされた独立戦争を「自由のための戦い」として州のプライドの源泉とみなすテキサス州の公的な歴史は、その根底から暴き出され、克服されなければいけない。
代々入植者やテキサス・レンジャー、保安官として暴力を行ってきた先祖たちについての史料が多く残っている一方、かれらの奴隷として酷使された黒人や、かれらに殺された先住民やメキシコ人らについての情報はほとんど残されていない。こうして強者によって、かれらを自由と独立を求めた歴史的先駆者として称賛する歴史が作り出され、語られていく。本書は著者自身の先祖を通してそうした歴史の暴力性を暴き出す、凄まじい本。
このところ、Sarah L. Sanderson著「The Place We Make: Breaking the Legacy of Legalized Hate」やRebecca Clarren著「The Cost of Free Land: Jews, Lakota, and an American Inheritance」のように、白人の著者が自分の先祖がどのように植民地主義や人種差別に関わってきたか、いまを生きる自分がどのようにその不当な恩恵を受け継いでいるか向き合う本が続けて出版されており、本書もそれらとともに読まれてほしい。