Gigi Gorgeous & Gottmik著「The T Guide: Our Trans Experiences and a Celebration of Gender Expression―Man, Woman, Nonbinary, and Beyond」

The T Guide

Gigi Gorgeous & Gottmik著「The T Guide: Our Trans Experiences and a Celebration of Gender Expression―Man, Woman, Nonbinary, and Beyond

トランス女性の人気ユーチューバーと「ル・ポールのドラァグ・レース」に出演した初のトランス男性ドラァグパフォーマーが組んだ若いトランスジェンダーやその周囲の人たちのための本。カミングアウト、社会的および医学的なジェンダー移行、その後の人生などのトピックが、基本的に二人の会話を通して語られていく。

本書はさらに、二人の会話の合間にユーチューバーやインフルエンサーから歌手・俳優までさまざまな有名人によるそれぞれのトピックにまつわる短いコラムが挿入されている。ゲイとしてカミングアウトした話を書いたアダム・ランバートはともかく、パリス・ヒルトンが女性らしさに自信を持つ話をしているのはさすがに参考にならなさすぎる。

最後のほうではトランスジェンダーの権利をめぐる運動についても触れているが、トランスジェンダーにとっていま一番重要な問題は可視化されることだ、と言っているあたり、いかにもインフルエンサーとして活動する著者たちらしい考えだけど、かなり昔から「生存や権利の保証がないまま可視化されることは差別や暴力により晒されることになる」という非白人や貧困層のトランスジェンダーの人たちが訴えていることがまったく聞こえていないかのよう。

あと、深刻な性虐待の経験とトランスフォビアともその他の暴力や侵害行為ともなんの関係もない日常のイラッとしたことをどちらも「トラウマになった」という言葉で表現するのは、そういう使い方をする人がいるのは分かるけど、さすがにまずいと思う。

まあ本書に登場するユーチューバーやインフルエンサーの名前すらピンと来ないわたしはどう考えてもこの本が想定する読者ではないし、こういう形だから救われる人、伝わる人もいるはず。