
Kawika Guillermo著「Of Floating Isles: On Growing Pains and Video Games」
フィリピンとハワイというアメリカによって植民地化された2つのルーツを持つクィアで自閉者のゲーマー&ゲーム研究者の自叙伝。大乱闘スマッシュブラザーズの自キャラはピーチ姫。
タイトルの「浮かぶ島々」はゲームが生み出す空想上の世界のことであり、また幼いころ夢中になったスーパーマリオやソニックなど横スクロールプラットフォーマーに出てくる空に浮かぶ足場。若いころには自分のセクシュアリティを模索するなかでファイナルファンタジー7のレノ(主人公の敵側の戦闘員だけど公私の区別は付けてバケーション中は戦わないカッコいいお兄ちゃん)になりきってチャットルームでオンラインセックスしてたFF派で、シリーズにおける生と死について延々と語るあたりは本物(何の)。
もちろんクィアなインディーズ・ゲーム制作者が作ったストーリー重視のクィアでフェミニストで脱植民地主義的なゲームについての記述も豊富。いっぽう、4chなどから男性ゲーマーたちが起こしたゲーマーゲート事件では多数の女性やクィアのゲーム関係者が理不尽な攻撃を受け、ゲームにおける多様性の表現が「ウォーク」として叩かれただけでなく、そこから多数の右翼インフルエンサーが登場しトランプのMAGA運動のレトリックの源流となったが、著者はそうした展開はゲームの保守性を示すものではなく、むしろゲームの革新的な可能性が大きかったために起きたバックラッシュだと言う。
植民地主義、レイシズム、セクシュアリティや自閉症とメンタルヘルスなどのトピックをゲームの話題に絡ませつつ、著者自身のゲーム履歴と人生を振り返る内容は、あちこち飛び回ったりゲームのうんちくが続いたりするけど予想以上に良かった。