Dianna E. Anderson著「Body Phobia: The Western Roots of Our Fear of Difference」

Body Phobia

Dianna E. Anderson著「Body Phobia: The Western Roots of Our Fear of Difference

保守的なキリスト教家庭で育てられたノンバイナリー自認の著者が、欧米文化における身体の客体化や序列化の背景にキリスト教的な価値観があることを指摘し、白人至上主義や異性愛主義、女性嫌悪、トランスフォビア、ファットフォビアなどを克服するためにそうした価値観に対抗しようとする本。

キリスト教における心身論では、精神と身体を別個のものと捉え、精神によって身体を律する価値観が主流。さらに精神を男性、身体を女性に割り当てることで女性を劣った存在として扱うと同時に性的客体化する。また、白人以外の身体や傷害のある身体、正常とされたもの以外の欲望を持つ身体も「正常な」白人男性の身体より劣ったものとされる一方、精神においては神のもと平等の立場に立てるという建前によって身体を理由とした差別的な扱いは大したものではないとされる。身体は精神によって抗われるものだと考えるからこそ、同性愛は精神的に乗り越えるべきだとか、身体を変えることで生きやすくするのは甘えだという論理にもつながる、と著者。こうした価値観により人々は自分の身体を恐れるようになり、そうした恐怖から逃れるためにさまざまな商品にすがり、また自分と異なる身体を排斥してしまっていると指摘する。身体を精神とは別にあるものと考えるのではなく、身体と精神が揃って自分なのだとただ受け入れることは、ことさらに身体を称揚するボディ・ポジティヴではなく、身体はただそこにあり善でも悪でもないというボディ・ニュートラルな思想に繋がると著者は訴える。

ノンバイナリーのアイデンティティについて著者本人の経験を添えて論じた前著「In Transit: Being Non-Binary in a World of Dichotomies」はわたしのなかではそこそこの評価をしていたつもりなんだけど、いま感想文を読んでみたらめっちゃ批判的なことを書いていて、なんかごめん。でもなんていうか、キリスト教的な保守政治の間違いに気づいた経緯とかおもしろい部分はおもしろいのだけど、アカデミックな感じを出そうとしてうまくまとめられてない感じがするのは今回もなんだよなあ。