Dan Sasuweh Jones著「Stealing Little Moon: The Legacy of American Indian Residential Schools」

Stealing Little Moon

Dan Sasuweh Jones著「Stealing Little Moon: The Legacy of American Indian Residential Schools

19世紀から20世紀中盤まで実施された、アメリカ先住民の子どもたちを親元から強制的に引き離してキリスト教と西欧文明に順応させるよう教育させた政策についての本。教育系の出版社が出しており小学校高学年以上向けの本ということになっているけど、生徒たちに対する虐待や性暴力、多数の死者について包み隠さず取り上げており、大人も読むべき。ていうか小学校高学年でこの内容は難しすぎる気がする(わたしの周囲のその年代の子どもがこれを読めるとは思えない)。

西部開拓を完了させ先住民たちの武力制圧を完成させたアメリカ政府は、先住民たちを「文明化」させキリスト教と西欧文明に同一化させることを目指した。その狙いの一つは、それまで土地や資源を共同利用・共同管理していた先住民の各部族に個人主義的な価値観と私有財産制を定着させることで、過去にアメリカ政府がかれらと結んだ条約を無効化し、かれらの土地を買収して白人の所有を可能にすることだった。文明の遅れた先住民たちに正しい宗教と文明を教えるとして先住民の子どもたちは親から引き離され、教会によって各地に設立された寄宿学校に収容されたが、そこでは先住民の言語や服装、文化的行為が厳しく禁止され、違反した生徒には体罰が行われた。また多くのそうした学校では伝統的な食料が与えられないのは当然のこと、十分な食事も与えられず、衣服や毛布も足りなかった。生徒に対する性暴力も多発し、かつてこれらの学校があった土地からはのちに在学中に亡くなった子どもたちの集団墓地が発見されている。

本書は19世紀から20世紀にかけてのアメリカの先住民管理政策の歴史から、そのなかにおける寄宿学校政策の位置づけやその変遷、そしてバイデン政権ではじめて先住民出身の担当閣僚となったデブ・ハーランド内務長官による調査などに触れているほか、厳しい状況のなかスポーツで活躍した生徒たちの話なども語られる。劣悪な環境の学校が多かったとはいえ、なかには伝統社会のなかで家族に虐待されていて学校に来て救われた子どもがいたことや、うまく順応してアメリカ社会で成功を掴んだ卒業生たち、比較的マシな状況だった学校での経験を懐かしむかつての生徒たちの話なども紹介され、それが寄宿学校政策を正当化するわけではないとはいえ、生徒たちの経験が単純ではなかったことも示している。