Brittany Friedman著「Carceral Apartheid: How Lies and White Supremacists Run Our Prisons」
カリフォルニア州の刑務所の記録や受刑者・元受刑者たちの証言などから、カリフォルニア州矯正局(刑務所を運営する部署)が1950年代以降、刑務所内に収容されているネーション・オブ・イスラムの信仰者や黒人解放論者たちを脅威と捉え、恣意的な処罰の対象としたほか、白人やメキシコ系の受刑者たちと黒人受刑者たちのあいだに意図的に対立を作り出し、かれらに私闘させ賭けに興じたりした事実を明らかにする本。
刑務所は社会の縮図とも言われるが、1950年代のアメリカではアパルトヘイト的な社会政策・人種政策の一環として刑事司法制度による反黒人主義的な取り締まりや処罰が行われただけでなく、アパルトヘイト的な社会運営が刑務所の中でも展開された。白人の刑務官たちは自ら黒人受刑者たちに暴力をふるうだけでなく、白人受刑者に便宜をはかり特権意識を煽るとともに、黒人受刑者に対する暴力を奨励したほか、(ネーション・オブ・イスラム信者を含む)黒人イスラム教徒や黒人解放論者などを思想を理由に懲罰用の独房に入れるなどして白人受刑者ではなく刑務所運営者に敵意を向けかねない黒人たちを弾圧した。刑務所に入れられるまで黒人コミュニティで育ったために話す言葉も考え方も黒人に近い白人が収監され、刑務所内でも黒人たちとつるもうとしたが、刑務官たちの介入によりほかの白人たちから矯正され、白人至上主義団体の信奉者になってしまった話なども。
さらに本書では、サン・クエンティン州立刑務所において設立された黒人解放団体にして一部はストリート・ギャングにもなったブラック・ゲリラ・ファミリーについて特に詳しく記述し、ブラック・ナショナリズムを唱えるこの集団に対する刑務所側の思想弾圧や、政治的な目的を掲げていたリーダーたちが独房に入れられた結果として分裂し一部がギャングや犯罪組織になった経緯などについても書かれている。ブラック・ゲリラ・ファミリーといえばブラック・パンサー党の創始者の一人ヒューイ・P・ニュートンを暗殺した人もメンバーだったし、のちにストリート・ギャングのブラッズとクリップスの抗争の激化によって影響力を失っていったのだけれど、政治的な脅威とみなされた集団に権力側が介入して過激化させたり分裂させて抗争させたりするのはいつものこと。
しかし情報開示の法律があるとはいえ刑務所の記録を開示させるのはめっちゃ大変だし、刑務所内にいる人にインタビューすることもめっちゃ難しいので、社会学者である著者の長年に及ぶ研究に頭が下がる。わたしも仕事でよく公文書の開示を請求しているので、「よくそんな資料入手できたな!」と驚きながらこの本を読んだ。