Benjamin Wallace著「The Mysterious Mr. Nakamoto: A Fifteen-Year Quest to Unmask the Secret Genius Behind Crypto」

The Mysterious Mr. Nakamoto

Benjamin Wallace著「The Mysterious Mr. Nakamoto: A Fifteen-Year Quest to Unmask the Secret Genius Behind Crypto

ビットコインとブロックチェーンの発明者であり正体が分からないまま消息を絶った謎の人物「サトシ・ナカモト」が誰なのか探しに探してやっぱり見つからない本。うん知ってた。

まあサトシ・ナカモトの正体が結局は分からないことや、それでもなにかいいことを言ってまとめようとすることも、読む前からわかっていたのだけれど、著者は100人を超える候補者たちについてあれこれ調べ、可能性の高い人たちには直接取材し(当然ながら誰も自分がサトシ・ナカモトだとは認めない)、また自ら自分がサトシ・ナカモトだと名乗り出た(大多数は明らかに違うとすぐ分かる)人たちについて検証したり、サトシ・ナカモトの経歴を推測したり、サトシ・ナカモトの書いた文章やメールから特徴的な言い回しを見つけたりAIに分析させたりして同じパターンのある関係者を見つけようとしたりと、まあいろいろがんばっている。ところでこのAIの使い方は、対象とする候補者の中に確実に正解があるなら有用だけれど、その保証がない時にはほぼ信頼できないのでやめましょう。イーロン・マスクがその正体だという説については、ああそっか、廃ツイッターアカウントになる前のマスクならそういうふうに思われることもあるかと思ったけど、さすがにビル・ゲイツやスティーヴ・ジョブズはないでしょ。アメリカやロシアや中国の政府機関が背後にいるとかは、まだありえるかも?

いずれにせよこれだけ多数の候補者がいながらほぼ全員が白人男性(一部アジア系男性など)で、候補者以外の登場人物もほぼ全員白人男性。あと候補の中にはマスクだけでなくリバタリアンをこじらせて極右になった人も多数いる。これでサトシ・ナカモトの正体が誰も考えもしなかった非白人の女性でした!とかなったら痛快なんだけれど、存命である保証もないし、存命であっても本人ですら自分がサトシ・ナカモトだと証明する手段を失っている可能性もある。爆弾を郵便で送りつけるテロ行為を繰り返したユナボマーは大手新聞紙に自分の論文を掲載させたことをきっかけとして本人の家族に「これ、うちのあいつじゃない?」と気づかれ通報されて逮捕されたけど、サトシ・ナカモトにはそんなこともない。これはもう、分からないでしょ。