Barrett Brown著「My Glorious Defeats: Hacktivist, Narcissist, Anonymous; A Memoir」
クラウドソース・ジャーナリストでハクティヴィスト集団アノニマスの関係者として軍事企業ストラトフォーの内部情報のリークに関わったとして投獄された著者の自叙伝。
アノニマスやウィキリークスとの関係がメインの話かと思いきや、裁判中、自分が関わった事件や類似の事例について公に発言することを判事によって禁じられていたため獄中生活についてのコラムを外部のメディアに掲載しており、そのためか本書の内容の半分くらいは刑務所の中の話で占められている。まあそりゃ凄腕のハッカーが来たという話が刑務所内で広まれば、大勢の受刑者たちがいろいろな非現実的なハックをやってくれとお願いに来るわけで、話題には事欠かないのは分かる。
著者はジャーナリストとして自らのメディアを立ち上げ、アノニマスらハクティヴィスト集団によって(だいたい違法に)取得された、大企業や政府による人権侵害や不正の証拠となるデータを分析し紹介するほか、次第に大手メディアからアノニマスやハクティヴィズムの専門家としてもコメントを求められるように。著者は自分はジャーナリストとしてアノニマスを取材し情報を紹介しているだけで違法行為には参加していないしアノニマスのメンバーでもない、と言っていたものの、大手メディアでは勝手に「アノニマスのスポークスパーソン」として扱われ、いや違うと言ったりアノニマスの関係者から「あいつはスポークスパーソンではない」と否定された結果、「自称スポークスパーソン」というイタい人みたいな肩書きを勝手につけられる。いやよく分かるよ、メディアが勝手に他称しただけなのにいつの間にか自称していることにされてしまうとか、大手メディアにありがち。
著者が逮捕されたのは、2012年に起きたストラトフォー社のメール漏洩事件に関わったことが理由。これらのメールにより、アメリカ政府やイスラエル政府・ロシア政府などによる民間人殺害や戦争犯罪、市民運動への監視や弾圧、そしてそれらの行為に軍需企業が参加していた事実などが明らかにされたが、著者はリークされたデータを自分のパソコンに保存していたことで事後共犯などの罪に問われた。自分はあくまでジャーナリストであり、その証拠に自分のメディアだけでなく一般の大手メディアにも寄稿していると主張したが、アノニマスのチャットに頻繁に出入りしていたことなどから関係者だとされた。
違法なハッキング行為に直接関わったことではなく、そうした行為によって明らかにされた情報をジャーナリストとして拡散するプラットフォームを作りその活動を行ったことで訴えられたという点で、著者はウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジと共通点があるが、2016年前後から著者は腐敗や人権侵害に対抗してきたハクティヴィストのなかから右派ナショナリストやファシストに転向する人たちが増えてきたことに気づく。ヒラリー・クリントンを敵視しトランプを支援しようとしたアサンジだけでなく、かつてアノニマスやその周辺にいた有名なハクティヴィストの何人かは、白人至上主義団体に加入してその技術を民主主義やマイノリティに対する攻撃に使うようになっている。あとから思えば、もともとアノニマスの中核となったのは4chanの/b/に集まった若い白人男性たちであり、白人至上主義に傾倒する若者たちとルーツは同じ。
現時点では著者はイギリスからの退去を求められており、アメリカに帰国することは危険だとして難民申請を行っている最中。だからまあ、書けることと書けないことがあるわけで、だからか過去の刑務所生活の話と、麻薬依存やメンタルヘルスの話が多くて、自叙伝としてはそれでいいのだけど、アノニマスやウィキリークスにどう本人が関わっていたのかという読者的に興味のある部分はやや薄め。仕方がないけど。