Andrew R. Chow著「Cryptomania: Hype, Hope, and the Fall of FTX’s Billion-Dollar Fintech Empire」

Cryptomania

Andrew R. Chow著「Cryptomania: Hype, Hope, and the Fall of FTX’s Billion-Dollar Fintech Empire

今年の春、有罪判決を受けたサム・バンクマン=フリード(SBF)とかれが設立した暗号通貨取引所FTXについての本。著者はテクノロジーを専門とするジャーナリストだけれど、どうも暗号プラットフォームのイーサリアムを作ったヴィタリック・ブテリンに心酔しているようで、暗号通貨をめぐるSBFとブテリンの思想的な違いが繰り返し対比されている。

SBFが行った犯罪については既にBrady Dale著「SBF: How The FTX Bankruptcy Unwound Crypto’s Very Bad Good Guy」でも読んでいたけれど、本書ではFTX利用者だけでなくFTXが提示するプラットフォームに約束された機会に飛びついた世界各地の人たちが利用されて捨てられた過程を描いている点が良い。暗号通貨だけでなくNFTの発行と販売に期待を寄せたナイジェリアの起業家やアーティストや、NFTゲームで強化したキャラクターを売るために1日中ゲームに打ち込んだフィリピンの失業者ら、多くの人たちがSBFらが宣伝する話に乗せられ、しかし結果的にそれらの多くはマルチ講の一種に過ぎなかった。なかなかアート業界に評価されないアフリカのアーティストたちがNFTで生活することを夢見たが、欧米の投資家が期待する市場価値の高騰が起きないため叩かれる話とか、切ない。

もともとSBFは暗号技術に興味があったわけではなく、効率的利他主義の信念に沿ってできるだけ早くできるだけたくさんお金を稼いでそれを良いことに使おうとしただけなので、中央集権的なシステムを作ってそれを悪用してしまった。いっぽうブテリンにはちゃんと思想があって、それもただ単に政府の干渉がなければいいというカリフォルニア・イデオロギーではなく、社会全体のことを考えています!って著者は書いていて、SBFと対比させることでブテリンを押し上げようとしているんだけど、でもイーサリアムはとっくにブテリンの手を離れてしまっていて、NFTとかDAOとかDeFiの実態はどうなのって話。著者も暗号通貨周辺が2008年の金融危機を巻き起こしたのと同じようなアンコントローラブルなリスク過多な状態に陥っていることは指摘しているんだけど、ブテリンにそれを解決するプランがあるとも思えないし。