Anand Giridharadas著「The Persuaders: At the Front Lines of the Fight for Hearts, Minds, and Democracy」
政治的な分極化が進み、意見の違う人を説得して味方を増やすよりも既に同じ意見を持っている人たちが確実に投票に参加するよう促すことが選挙に勝つ秘訣とされているなか、説得による勢力拡大を試みているリベラル派や進歩派の活動家や政治家、選挙戦略家らについて紹介する本。
右派による反ポリコレや反「ウォーク」の宣伝により、リベラルや進歩派は異なる意見に不寛容であり些細なことで差別だと糾弾する、というイメージが作られているけれど、実際にリベラルの勢力拡大を試みている人たちは確固とした信念を持つとともに、同じ信念を持つには至っていない人たちを切り捨てるのではなくかれらの視点も尊重しようとしている、と著者。女性マーチ主催者の一人だったリンダ・サルソー、リプロダクティヴ・ジャスティス運動の中心人物であるロレッタ・ロス、ブラック・ライヴズ・マター創始者の一人でもあるアリシア・ガーサら活動家たちが、批判を受けながらも意見の異なるさまざまな人たちの連帯を築き上げようと苦労する話から導入し、とにかく実直に信念だけを訴え続けるバーニー・サンダースととは対象的に強い信念を訴えつつも個人的な経験を語ったりネットミームを利用したりペロシ下院議長と取り引きしたりと多彩な戦略を取るアレクサンドリア・オカシオ・コルテスのふるまい、保守派や中間層にすり寄ろうとするのではなくリベラルの価値を正面から訴えつつ理解を広めるコミュニケーション戦略を指南するAnat Shenker-Osorio、そしてこれまでの政治運動における戸別訪問の方法を大きく覆し少しずつ味方を増やしていくディープ・キャンヴァシングを行う活動家たちの話など、リベラルが政策を実現していくために必要な話がたくさん詰まっている。
活動家の話は既にわりとよく知っていたわたしにとっては、Shenker-Osorioについての章が一番おもしろかった。たとえば選挙のたびに民主党と共和党のあいだを行ったり着たりする浮遊層の支持を取り付けるためにリベラルは自分たちの主張を抑えて保守にも配慮したことを言うことが多いけれど、浮遊層は実際には中道でも中間層でもなくイデオロギー的な傾向が薄いだけだという指摘。かれらは保守の主張を聞いてもリベラルの主張を聞いてもそこそこ説得されてしまい、その時その時でより多く見かける意見に同調しがち。「黒人はいまでも差別されていると思うか?」と聞くとイエスと回答し、「黒人は差別を言い訳にせず自助努力すべきか?」と聞くとそれにもイエスと答えたりする。なのに中間層の反発を恐れてリベラルの主張を隠すような戦略を取ってしまうと、かれらは保守の主張しか目にしなくなるため、かえって保守の支持を増やしてしまう。ピザを食べるかハンバーガーを食べるか迷っている人にピザ味のハンバーガーを出そうとするのではなく、自信を持って自分が提供できる一番美味いピザ(もしくはハンバーガー)を提示すべきだという話。
ほかにも示唆に富んだ話がたくさんあって、政策関係の仕事をしているわたしにとっても参考になった。