Alice Bolin著「Culture Creep: Notes on the Pop Apocalypse」

Culture Creep

Alice Bolin著「Culture Creep: Notes on the Pop Apocalypse

鋭い批評に定評のある著者が、フェミニズムとポストフェミニズム、テクノロジーとテクノロジー・カルト、ポップカルチャー、COVIDなどさまざまなトピックを自在に行き来するエッセイ・評論集の二作目。あんまり見事すぎて語彙力を失ってしまうけど、とにかくすごい。

スマートウォッチなどのトラッキングデバイスを使った自己計量化の動きから監視技術やAIをめぐるテクノロジーの暗部やそれへの投資を支えるテクノロジー・カルトの話につなげる序盤から、自己啓発セミナーの形態を取った性虐待組織NXIVMのようなリアルなカルトの話、「セックス・アンド・ザ・シティ」や「スター・トレックTNG(新スター・トレック)」について今更その理想とヘテロセクシズムについて考える話、COVIDによるロックダウン初期に著者がガチハマりしたニンテンドースイッチの「あつまれ どうぶつの森」における植民地主義や人種資本主義の話からユーザたちが本来意図された遊び方を超えて新たな遊び方を見つけていることに気づく話、かつて多数出版されていたティーンガール向けの野心的な雑誌から受けた影響の話など、いくつかの章では「もういまさら論じることもないのでは」と思いつつ読むときちんと新しいことを言っていておもしろい。

わたしがもっとも関心を持ったのは、「プレイボーイ」誌の発行主であり反ポルノ運動の標的となったことから言論の自由を守る活動家にして資金提供者でもあったヒュー・ヘフナーについて取り上げた最終章。ヘフナーに関しては最後の妻であるCrystal Hefnerによる「Only Say Good Things: Surviving Playboy and finding myself」が昨年出版されたほか、かれのマンションで生活していた元モデルらによる告発も相次ぎ、かれが長年に渡って自宅のプレイボーイ・マンションで行われるパーティに招いたモデルたちに望まれない性行為を強要するなどの暴力を繰り返していたことが分かっているが、本書はそれらをまとめるとともに、第二波フェミニズムの代表的なリーダーであるグロリア・スタイネムが注目を集めるきっかけとなったプレイボーイ・クラブへのバニーとしての潜入記を再評価したり、ポルノ雑誌を売りつつ性労働者を(自分自身が権力や財力によって性暴力の対象としていた)モデルたちより下に見ておりモデルたちにも性労働者を見下すよう促していたことなどを指摘するなど、性暴力と権力、ポルノグラフィ、労働など複雑な話をうまいことまとめていた。ストリッパー組合やアジア系マッサージ労働者支援、あるいは性的人身取引被害者支援などにも関わっているわたしの経験からも、性労働に隣接している、部分的には重なっている労働者たちと性労働のスティグマから逃げようがない労働者たちの連帯の難しさは痛感しているが、ヘフナーのように性的消費・搾取の自由ばかりを求める男がその分断を煽っているのもまたよく見る。

とにかく全体を通して、読んでいるだけでこれまで関連付けていなかったトピックがものすごいスピードで繋がっていく感覚のある本。この紹介では全部のテーマをカバーしてはいないけど、上記のテーマの半分でも興味があれば、読んで損はないと思う。