
Paul Heideman著「Rogue Elephant: How the Republicans Went from the Party of Business to the Party of Chaos」
企業や資本家、中小企業経営者らの利益を代弁していたはずの共和党がどのようにして混沌を撒き散らすようになってしまったのか分析する本。
共和党がトランプの個人政党に成り下がるまでの経緯は、共和党のそうした流れに抵抗した政治家によるLisa Murkowski著「Far from Home: An Alaskan Senator Faces the Extreme Climate of Washington, D.C.」やLiz Cheney著「Oath and Honor: A Memoir and a Warning」をはじめ、Tim Miller著「Why We Did It: A Travelogue from the Republican Road to Hell」、Michael Tackett著「The Price of Power: How Mitch McConnell Mastered the Senate, Changed America, and Lost His Party」、Jeremy W. Peters著「Insurgency: How Republicans Lost Their Party and Got Everything They Ever Wanted」など多数の書籍で取り上げられているが、本書はそのなかでも共和党を伝統的に資金面から支えてきた産業界の影響について注目する。
もともと産業界の利益を代弁するとされてきた共和党だが、ヨーロッパ各国の保守政党が社会主義運動や労働運動に対抗するための資本家階級の利益を代表するように発達してきたのに対し、アメリカでは1920年代や1960年代から1970年代にかけてのごく短い期間を除いて社会主義運動や労働運動が資本家階級を本格的に脅かすことがなかった。そのため産業界が一致団結して支援する団体は生まれず、それぞれの業界や地方を代表する団体が乱立した。
1990年代以降、メディアが多元化し、選挙区での昔ながらの選挙運動にかわりテレビやネットを使った宣伝の影響力が強まると、選挙組織を抱える政党が弱体化するとともに、コーク兄弟を中心に一部の右翼的な富豪たちが集める政治資金の価値が高まり、かれらの声が産業界の声として通用するようになる。産業界には減税・規制撤廃といったおおまかな共通の利害はあるものの、貿易政策や移民政策、医療保険行政、気候変動対策、独占禁止法など個々の問題においてはさまざまな業界の利害が対立し、本来なら産業界全体が支持する政策はそれほどないはずだが、共和党内の政治闘争をとおして一部の右翼的な富豪の意見が産業界全体の意見として共和党の政策に取り入れられていく。大規模な減税と規制の撤廃という大目的のために産業界が後押しして実現したトランプ政権は、しかしそれだけにとどまらず、ごく一部の極端な意見を優先した結果、関税や移民政策をめぐって産業界の大部分の利益を損ねる結果となってしまった。
資本家階級・産業界が一致して自分たちの利益を追求するための政党がもしあったとしたら労働者や一般庶民にとってはおそろしい宿敵になるけれど、産業界を代表しているわけでもなく一部の大富豪の好き勝手で動く政治勢力というのはある意味もっと面倒。そして弱体化した政党と個人の資産が無制限に選挙に使える政治制度がそのままである限り、トランプが退場したあとも共和党がまっとうな保守政党というか、ヨーロッパの保守政党のようなまっとうな資本家階級政党になることすら難しく、もうぶっ潰しかなさそうだと思う。