Chris Horton著「Ghost Nation: The Story of Taiwan and Its Struggle for Survival」
ロシアによるウクライナ侵攻の裏でより大きな国際紛争の勃発が危ぶまれている台湾の歴史と現在についての本。台湾在住のジャーナリストが、先住民時代からはじまり、オランダ・清・日本による植民地支配、そして中国国民党による占拠と独裁制という四世紀に及ぶ海外勢力の支配からの民主化と経済発展まで取り上げ、中国による海上封鎖や侵攻の危険とその影響まで取り上げる。
とにかくまあ、台湾すごい。運良く欧米による植民地化を避けていたと思ったらいきなり植民地獲得競争に参戦したあげく数十年で破綻してアメリカに民主化までしてもらった日本と違い、台湾や韓国など何世紀にも渡って植民地主義と戦ってきた、そして弾圧を受けながら何度も民主化運動を起こしてきた歴史のある国の民主主義は強い。台湾が国際的に亡霊のような扱いになってしまった原因は蒋介石の国民党政権にあるけど、それは台湾の人々を代表する政権ではなかったし、もはや中国本土に返り咲こうと考える政治勢力は台湾にはない。もちろんトランプが余計なことやってその口実を与えてしまう危険はあるけど、台湾海峡をめぐって軍事衝突があるかないかはほぼ中国共産党のさじ加減次第。
中国の側から見れば、韓国・日本から沖縄・台湾を通ってフィリピンに繋がるアメリカの影響圏に閉じ込められているみたいにも見えるし、そこに穴を開けられたら太平洋に自由に進出できるようになるので、それらの国のなかで唯一アメリカとの相互防衛協定がない台湾をひっくり返そうとするのは合理的。台湾を攻撃したら世界経済が崩壊して中国だってダメージを受けるし、アメリカはTSMCを中国に引き渡すくらいなら躊躇なく爆破していくでしょ、と言われても現実にロシアがウクライナ東部だけでなく全土を侵略したりと欧米の浅はかな合理性の計算に合わないことが起きているのがいまの世界情勢。
ただ、そのロシアがウクライナなんて数日あれば占領できると思っていたら思わず抵抗を受けたように、中国政府も台湾の人々がどれだけ中国に抵抗するのか、できるのか、想定できていない可能性もある。エストニア系フィンランド人の著者が書いたSofi Oksanen著「Same River, Twice: Putin’s War on Women」ではロシアだけでなく欧米までもがウクライナ人の抵抗を過小評価していたのは、ウクライナの人たちが受け継いできた反植民地主義運動の蓄積を軽視していたからだと指摘されていたが、同様に中国政府もアメリカも台湾の人たちの反植民地主義運動の歴史とそこから来る抵抗の力をよく理解していないようにも思う。