Tamara Yajia著「Cry for Me, Argentina: My Life As a Failed Child Star」
アルゼンチン出身のユダヤ人家庭に生まれ、マドンナの真似をしてセクシーなコスチュームで歌い踊るなど過激なパフォーマンスで売れかけたところで家族に連れられてアメリカに移住した(そしてのちに一家はアルゼンチンに帰国し再びアメリカに戻ってきた)著者が、芸能人を目指したり、処女のふりをして男をひっかけまくったり、詩集を出版したり演劇やコメディをやり、ストリーミング番組を制作と、才能と躊躇の無さを武器にとにかく暴れまくる、めっちゃ笑える自叙伝。
著者はコメディアンとしても活動しているので家族について書いていることがどこまで事実なのか(どこか盛っていないか)自信は持てないのだけど、彼女の両親がセックスにオープンすぎてヤバい。著者が11歳のとき学校で年上の女の子たちが話しているのを耳にした「オーラルセックス」という言葉の意味を母親に聞いたところ、「お互いのペニスやヴァギナを舐めたり吸ったりすることよ、すごく気持ちいいし、わたしとあなたのお父さんは愛し合っているから、週に何度かやってるよ」と即答してきたというエピソードとか、やばすぎて尊敬してしまう。で、娘がシナゴーグ(ユダヤ教の寺院・教会)の発表会でマドンナの真似をしてガーターベルトと下着だけになるパフォーマンスをやっても咎められなかったし、一家がアメリカに移住してはじめたフライドチキンのお店は「セクシー・チキン」という店名。最近でも母親自身がOnlyFansという(主にセクシー系の)クリエータが自分のファン向けに動画や画像を配信できるサービスの存在を知り、さっそく入会して「セクシーなアルゼンチンのお母さん」キャラでファンを集めてそこそこ稼いでいる。
コメディアンが自分の過去を面白おかしく書いた自叙伝というのはけっこう出版されていて、まあ人を笑わせるプロだからエピソードはおもしろいのだけど、なかでも本書は群を抜いているうえに、あまりにすごすぎて逆に作り話でこれはないなと感じさせる。タイトルも単にアルゼンチンと言えば、的にミュージカル「Evita」から取ってきたのかと思いきや、ちゃんとマドンナやエヴァ・ペロンの話とつなげている。でもまあ一家がアメリカに移住するきっかけとなったアルゼンチン経済の混乱はだいたいペロニストのせいなんだけど。