Stu Oakley & Lotte Jeffs著「Do Ask, Do Tell: Queer Life, Love and Culture Laid Bare」

Do Ask, Do Tell

Stu Oakley & Lotte Jeffs著「Do Ask, Do Tell: Queer Life, Love and Culture Laid Bare

過去にもクィア・ペアレンティングについての共著がある二人がLGBTについて疑問に答える入門本。2025年にもなって今更という気もするけれどそういう本の需要はまだあるのでそれはいい。

けど著者たちは自ら認める通り二人とも「シスジェンダーのゲイ男性とジェンダークィア自認レズビアンで、白人、健常者、定型発達、ロンドン在住の中流階層」、さらに明記はされていないけどおそらく両者とも40歳代。多様なLGBTコミュニティについて伝えたいという目的に著者たちの見識や能力が追いついておらず、自分たちがあまり知らないトピックについてはネットで調べたり当事者(だいたい一人だけ)に聞いたみたいな感じ。それらのうちわたしが知っている部分(たとえばインターセックスや性労働)についての記述は、当事者にそういう意見を言う人がいるというのは分かるのだけれど、たった一人だけ登場させてコミュニティを代表させるには不適切なものが多かった。

たとえばインターセックスについての部分では当事者である一人の研究者・ライター(本書では名前が明記されている)の発言が数ページにわたって掲載されているが、「どうしてインターセックスがLGBT(QIA+)に含まれるのか」という疑問について「国連機関などで使われている用語に性的マイノリティを指すSOGIESCという言葉がありそこに含まれているから」という説明がされているのだけれど、その説明だとどうして含まれたのかというそもそもの理由が説明されておらず、著者も「どうして含まれるのかかえって分からなくなった」と素直に書いている。いやもうちょっと他の人の意見を聞くなり自分で考えるなりしろよと。

またその当事者は大きな問題としてインターセックスの人たちのかなり大きな部分が「とてもトランスフォビック」だとして、それは自分たちが望まないジェンダー医療を勝手に受けさせられたことのトラウマが原因だろう、と推測しているのだけれど、もちろんインターセックス当事者のあいだにも一般社会なみのトランスフォビアはあるとしても、特にトランスフォビックに見えるとしたらそれは某トランスフォビックなソーシャルメディアで一部のトランスフォビックな当事者アカウントが目立っているだけのようにわたしには思える。

LGBTコミュニティにおけるさまざまなアイデンティティやスラングについて説明する部分で、コミュニティで長年多くの人たちに使われている言葉と一時的に流行ったけどすぐに収束したネットミームみたいなのが並列で並べられているのも、著者たちが自分の周辺の同質的なコミュニティについてしか知らずネットで適当に調べた感じが出ているし、代名詞を尊重しようとか他人が性別再判定手術を受けているかどうか興味本位で聞くなとか言ったすぐあとに「第三の代名詞にはこんなものがある」とか「トランス当事者はこういう手術を受ける」と何の基準もなくいい加減にセレクトされたものがリストアップされていたりとアラが目立つ。

ゲイのStuがレズビアンについて学ぼうとしてk.d. lang(1980年代から1990年代に活躍したレズビアン・ミュージシャン)の音楽を聴き始めてレズビアンのLotteに全力でツッコミを入れられる部分はおもしろかったのだけど、著者のどちらも知らない分野についての記述ではツッコミが入らないので読んでいられない。入門本を書く前にまずちゃんとした入門本を読めと言いたくなった。