Shalinee Sharma著「Math Mind: The Simple Path to Loving Math」

Math Mind

Shalinee Sharma著「Math Mind: The Simple Path to Loving Math

数学の学習を支援する非営利サイトZearnの共同設立者が数学教育のあり方を論じる本。数学ができるのは一部の人たちだけ、多くの人たちが数学が嫌いなのは当たり前、といった思い込みに対して、数学は誰でも習得可能なスキルであり創意工夫が活かせる楽しいものだと訴える。

大人も子どもも数学を苦手と感じている人は多いけれども、それはかれらが学校教育において「数学は難しい、一部の特別な人たちだけが理解できるもの」という印象を植え付けられたことに起源すると著者。概念や規則を暗記して練習を繰り返し回答を出すスピードをあげていく、という学習法が推奨され、それについていけない人、ついていけないと思い込まされた人は振り落とされていく。社会の偏見により親や教師によって女子や黒人・ラティーノの子どもたちははじめから数学ができないものとして扱われ、数学ができなくても読み書きができればいいとか、数学よりアートやスポーツが得意なんだと思い込まされているが、いまの世の中では生活費のやりくりだけでなくローンの返済やニュースを理解するにも数学は不可欠。

マクドナルドの1/4パウンドバーガーに対抗して別の会社が1/3パウンドバーガーを売り出したが多くの消費者が分母の数字だけ見て1/3より1/4のほうが大きいと誤解したせいで売れなかったという笑い話みたいな話があるように、アメリカの数学教育はうまくいっていない。多くの学校において数学とは問題を見てすぐに正しい解法に気づき速やかに答えを出す競技として扱われているが、これは多くの生徒たちを数学学習から脱落させる結果を引き起こしている。同じ問題でも人によって解法はさまざまだし、はじめは概念の操作を暗記するよりビジュアルを通して問題を具体的な例で理解することも必要、など、数学教育のあり方を論じる。

著者が設立した数学学習サイトは非営利団体として運営されており、数学を苦手としていた子どもに特に有益だという。コロナウイルス・パンデミックによってリモート学習が長期に及んだ時期には多くの子どもたちが成績を落としたけれど特に数学は深刻で、そういう生徒たちにこそ落第した授業をもう一度受けさせるのではなく別の教え方を試すことが有効で、そのためにさまざまな工夫を凝らした教え方をするサイトが使える、と言ってたら「ヤバい経済学」でおなじみのスティーヴン・レヴィットせんせーが「だったらデータで証明してみろよ」って言ってきたのでデータを集めて返り討ちにしてやったらしい。

著者の主張はだいたい数学教育改革の第一人者であるJo Boaler氏(「Math-ish: Finding Creativity, Diversity, and Meaning in Mathematics」著者)の主張とも同じで納得がいく。しかしそれが学校の現場ではなくウェブサイトで可能なのか、という疑問はあるものの、全国の教員たちに新しい数学教育のやり方を訓練させるのにも時間がかかるはずで、現場の教員と専門家が作ったサイトをうまく組み合わせるのが良さそう。