Rachel Shabi著「Off-White: The Truth About Antisemitism」

Off-White

Rachel Shabi著「Off-White: The Truth About Antisemitism

反ユダヤ主義的な暴力が欧米各地で頻発すると同時に、パレスチナへの連帯を表明する学生たちが「反ユダヤ人主義」というレッテルを貼られて弾圧され逮捕されたり退学させられたりするなか、議論をすること自体が困難になっている反ユダヤ主義とそれをめぐる言説についてユダヤ人ジャーナリストが論じる本。

2023年10月のハマスによるイスラエルへの大規模な攻撃と、その数日後から現在まで続いているイスラエルによるガザへの侵攻・民族浄化のなか、アメリカ下院で開かれた公聴会で三人の大学学長たちが議員たちのやり玉にあがったシーンから本書は始まる。部分的に切り取られソーシャルメディアで拡散された動画では、議員の「ユダヤ人に対するジェノサイドを訴える主張は大学の規則に違反するか」という単純な質問に学長はイエスかノーで答えようとせず、ごちゃごちゃ言葉を濁していたとして批判を浴び、三人のうち二人はその後辞職に追い込まれた。しかし実際の公聴会での議論を観ると、議員たちがパレスチナ人への連帯やイスラエル政府を批判する声をジェノサイドと意図的に混同してそれらを表明する学生たちを処分するよう求めたのに対し、学長たちはパレスチナ・イスラエルをめぐるさまざまな意見の存在やイスラエル政府への批判は反ユダヤ人主義でもユダヤ人殺戮の推奨でもないことを指摘するなどきわめて真っ当な発言をしており、学生たちの言論の自由を擁護しつつユダヤ人やパレスチナ人の学生たちの安全を確保しようとしていた。議員たちは言論の自由とその限界をめぐる真摯な議論を求めていたのではなく、パレスチナ人への連帯やイスラエル政府への批判を封じ込めるために学長たちを見せしめにしようとしていただけだった。

この例に明らかなように反ユダヤ人主義というレッテルは、ユダヤ人に対するジェノサイドを実行しようとしているという言いがかりによって、実際にジェノサイドの被害を受けているガザのパレスチナ人たちによる抵抗やかれらに対する連帯の声を押さえつけるために機能している。と同時にユダヤ人に対する嫌がらせやヘイトクライムは実際に各地で起きており、反ユダヤ人主義は実際に存在しているし、そもそも反ユダヤ人主義というレッテルがパレスチナ人やかれらに連帯する世界の人々に対する攻撃の道具として成立していること自体が、反ユダヤ人主義のあらわれでもある。本書は反ユダヤ人主義が歴史的にイスラム世界ではなくキリスト教世界において古くから続いてきた伝統であり、ホロコーストを経てヨーロッパ系ユダヤ人(アシュケナージ)が白人に限りなく近い「オフ・ホワイト」の立場を得てからは「反ユダヤ人主義」というレッテルが白人キリスト教徒を頂点とする白人至上主義を守るための道具とされてきたことを指摘する。

また本書では欧米の保守派・白人至上主義勢力がよく言う「ユダヤ・キリスト教的伝統」というフレーズが実際にはより関係の深かったユダヤ文化とイスラム文化の関係を引き裂きイスラム文化を貶めるために作られた創作であり、実際にはそれは白人キリスト教ナショナリズムのことであることを指摘、ユダヤ人の安全や自由を一切尊重せずキリスト再臨のための準備としてユダヤ人国家の創設と周辺国との戦争を求めるキリスト教シオニズムの論理に対して、かれらはイスラエル支持や反ユダヤ人主義批判を口先で言っていても実際にはユダヤ人の友人にはなり得ないと主張する。と同時に、かれらから反ユダヤ人主義という言葉を取り戻し、パレスチナ人や学生に対する弾圧の口実とさせないためには、リベラルや左派こそが現実の反ユダヤ人主義に対して堂々と語り抵抗する必要があることも訴える。