Nat Raha & Mijke van der Drift著「Trans Femme Futures: Abolitionist Ethics for Transfeminist Worlds」
トランスでフェムな未来の本。ってタイトルそのままやんけ!って自分でも思うけどほかにまとめようがなかった。著者たちはイギリスのアート講師で、これまでにもトランスフェミニズムについて論じてきたコンビ。
本書はトランスやフェムを単に「生まれた性別と性自認が異なる人」とか「女性的な人」ではなく、抑圧や偏見、軽視を超えまだ見ぬ生き方・未来を求めることだと定義して(このあたりホセ・エステバン・ムニョスの影響が強い)、これまでトランスやフェムの権利を否定してきたリベラルな制度のなかで権利を求めるのではなく、未だそこにない共同的で非国家的なケアと自己決定のあり方を主張する。
ムニョスやルゴネスを引用してリベラリズムと植民地主義の関係を指摘したり、Jennifer Nash著「Black Feminism Reimagined: After Intersectionality」やMarquis Bey著「Black Trans Feminism」らを引いてブラック(トランス)フェミニズムによるリベラリズム批判を参照しつつリベラルなトランス運動を批判し、さらにはブレグジットに象徴されるイギリスの植民地主義否認主義・白人至上主義的な右派の論理とイギリスのメディアや政府を席巻している反トランス主義との繋がりを指摘する。
ジェンダー医療のあり方について、わたしの20年来の盟友シーラ・ハッサンさんが書いた「Saving Our Own Lives: A Liberatory Practice of Harm Reduction」(著者と親しすぎるしわたしが12箇所くらい引用されているので恥ずかしくてここでも紹介してないけど、できたらみんな読んで)を引いて解放主義的ハームリダクションを主張し、(監獄)廃止主義の話に繋げていくあたりとか、うーん、参照している文献も言っている内容も納得できるものなんだけど、不必要に難解な表現を使ったりしてる気がして、そこが微妙。マルクス主義論客の悪い癖でしょこれ。