Miles Marshall Lewis著「Promise That You Will Sing About Me: The Power and Poetry of Kendrick Lamar」
ラッパーとして(というよりクラシックとジャズ以外のミュージシャンとして)初めてピュリツァー賞を受賞したケンドリック・ラマーの生涯とアーティストとしての成長をたどりつつ、Black Lives Matter運動のアンサム(「Alright」)ともなった音楽とリリックのすごさを改めて教えてくれる本。著者は黒人音楽ジャーナリストだけれど、かれの文章に多くの黒人批評家やアクティビストやアーティストのコメントが差し込まれていたり、ケンドリックに影響を与えた・ケンドリックに影響を与えられたさまざまな事象のイラストや写真が含まれていたりで、より複眼的にかれの時代や環境について認識できる。
かれの政治的なナイーヴさについての批判、たとえばヒット曲のなかでも「Blacker the Berry」で黒人コミュニティ内の自己嫌悪を告発することで人種格差を自己責任と決めつける白人右翼の主張を後押ししてしまったことや、「HUMBLE.」で「フォトショップで修正された写真にうんざりだ、ナチュラルな尻が見たい」と一見メディアのルッキズムを批判したようなリリックが「それは単なるお前の趣味だろ、お前がどういう尻を見たいかなんて知るか」と女性たちに反発されたことなども取り上げられ、決してケンドリックが理想化されたBLM時代のリーダーではなく、才能にあふれつつも、1人の成長しつつある若者であることも示されている。