Michael Tackett著「The Price of Power: How Mitch McConnell Mastered the Senate, Changed America, and Lost His Party」

The Price of Power

Michael Tackett著「The Price of Power: How Mitch McConnell Mastered the Senate, Changed America, and Lost His Party

史上もっとも長いあいだ上院共和党のリーダーとして君臨しつつ、その党をトランプに丸ごと奪われてしまったミッチ・マコネル元上院院内総務の伝記。

減税や規制緩和、司法への保守派判事の任命など共和党の政策を進めるために、毛嫌いしていたトランプに協力し、延命に手を貸し、しまいには党への影響力を奪われてしまったマコネルは、悲劇の主役というよりは、権力さえ握れればそれ以外はどうでもいい人物とされがち。ポリオ(急性灰白髄炎)により二度と歩けなくなるのではと言われた幼少期をバネに上院議員を志ざし、キャリアのはじめは中道保守的な立場でレーガン革命を批判し、女性を重要な地位で重用したり、ミャンマーの軍事政権によって軟禁されていたアウン・サン・スーチーさんを支援していたりと、意外な側面も。

上院の協調的な文化や民主主義の原則を強く主張しながら、オバマ政権末期には大統領が最高裁判事に指名したメリック・ガーランドの承認審査の開催すら拒否して妨害したり、フィリバスターによって議会を空転させるなど、近年の政治の停滞の責任の多くがかれに負わせられている。2021年に連邦議事堂占拠事件が起きたあと、トランプが暴動を扇動したことは間違いないと言いながら、もうトランプの復活はないだろうと考え弾劾裁判によってきっちりトランプを沈めておかなかったことは、マコネルにとって生涯最大の失敗。

共和党が上院で多数派を取るために結成した政治資金委員会を通して多額の献金を集め全国の上院候補に分配することで確固とした権力を維持してきたが、本人の支持率は低く、かなり保守的なケンタッキー州選出でありながら何度か落選しかけたほど。本書はマコネルの才能の一つとして、他人にどう思われようと気にしない皮の厚さがあげられているが、あれだけ自分をソーシャルメディアで罵ったトランプを最後まで支えてしまったのはそれが原因な気がする。また、ほかの政治家たちの多くが政治的意見に賛成するかどうかはともかくバラック・オバマの頭脳とカリスマに感心していたの一方、マコネルはオバマのことを「自分が一番頭がいいと周囲に示さないと気がすまないいけ好かないやつ」として嫌い、上院で長年同僚だったバイデンと良好な関係を維持した、というのはおもしろい。

子どものころから大統領になろうと考えるのではなく上院議員として長く君臨することを目指していたマコネルは、その野望を完全に達成したように見えるのだけれど、そのかわりに到底相容れないトランプを生み出し、しかもあと一歩で潰せるところ油断して復活を許してしまった。著者がマコネルに伝記の執筆を持ちかけたとき、拒否されるかと思ったが協力を快諾され昔の資料など(大学学生会の選挙での不正やヴェトナム戦争への徴兵を避けるための怪しい主張など本人に不利なものも含め)大量に提供されたというが、ここで自分のキャリアについてきちんとまとめて欲しいという欲求があったのだろう。