Melissa Fitzgerald & Mary McCormack著「What’s Next: A Backstage Pass to The West Wing, Its Cast and Crew, and Its Enduring Legacy of Service」
マーティン・シーンが大統領を演じホワイトハウスのスタッフたちを主役にしたアーロン・ソーキン監督のテレビドラマ「The West Wing」(邦題「ザ・ホワイトハウス」)が放映されて25年のいま、当時ドラマに出演していた役者二人が番組についてまとめた本。
1999年から2006年にかけて放映された「The West Wing」は当時わたしも観ていて、人間的な弱みはありつつもあくまで公共のために力を尽くし必死に働くホワイトハウスのスタッフたちには親近感と憧れを感じた。ドラマが放映されたのはクリントン政権の末期で、モニカ・ルインスキーさんとの関係について嘘をついたクリントン大統領が弾劾されたが、そのクリントンを糾弾した共和党のほうからも多数のスキャンダルが飛び出し、また予算をめぐる対立で議会が紛糾するなどして、党派的な対立と政治不信が広がりつつあった時期。そういう時期に作られたこのドラマは、リベラルな視聴者がメインの登場人物に共感できるのはもちろん、保守派の政治家たちもただの敵ではなくかれらなりの正義と信念のある好敵手として描かれていて、現実の政治に失望しつつあった多くの人たちから支持された。
かつて「The West Wing」を観て政治を志した人たちは、いまや民主党・共和党双方で中心的な役割を果たしているが、にもかかわらず党派対立は当時よりさらに先鋭化してドラマで描かれたような政策論争すら成り立たないような状況になっている。そういう現在からこの番組を振り返るのはおもしろそう、と思ったのだけれど、残念ながら本書はそうした期待に応えるような内容ではない。本書の大部分は番組の成り立ちや出演者や番組スタッフのインタビュー、かれらのお勧めチャリティ、人気エピソードの解説など、演者や番組についてのものであり、社会に与えた影響や現在の政治への示唆といった内容はほぼない。40章のうちの39章目でようやくかつて番組に影響を受けた政治関係者たちの話が出てくるけど、それぞれの人が番組のどこが好きだったか語る程度の浅い内容。
人気エピソードの選択も、一般的な視聴者が気になるドラマティックなシーン(大統領暗殺未遂などシーズン終わりのクリフハンガー的なやつ)が取り上げられていて、政治オタクのわたしが個人的に面白かった、政治のあまり知られていないマイナーな部分をうまくプロットに膨らませたエピソードなどは含まれていなくて、まあ妥当だと思うけど個人的には悲しい。あと、出演者たちが仲良しすぎて(マーティン・シーンが毎年出演者やスタッフやそのパートナーらを100人以上引き連れてラスヴェガスに行くバスツアーを企画して、自分もバスで一緒に移動してわいわい騒いで旅費を全部払うだけじゃなくギャンブルするためのお小遣いまで配ってたとか、ハリウッドのスケールがすごすぎる)お互いの悪口や批判が全然出てこないし、ソーキンが麻薬所持での逮捕されたこととかにも一切触れられておらず、元出演者だからこそ共演した人たちにインタビューできたということはあっても、ジャーナリスティックな内容ではない。
まあ、かつてのファンとしては、ああ、そういうシーンあったよな!とか、そんな裏話あったんだ!的におもしろい部分はあったのだけれど、期待していたものとは少し違うかなと。あと、600ページ超は長すぎ。