Maya Wiley著「Remember, You Are a Wiley: A Memoir」

Remember, You Are a Wiley

Maya Wiley著「Remember, You Are a Wiley: A Memoir

父に著名な公民権活動家を持ち、2021年のニューヨーク市長選挙に立候補した(民主党予備選で3位敗退)人権派弁護士による自叙伝。

わたしが著者の名前を知ったのはニューヨーク市長選挙で民主党左派やプログレッシブの人たちが応援しているのを見たからだけれど、本書の半分以上は、保守的なテキサスの白人家庭で育ったのにニューヨークのハーレムに一人引っ越して黒人男性と結婚した母と、シラキュース大学で化学者として名前を挙げながら公民権運動や福祉受給者運動に身を投じ指導的役割を果たした父を中心とした話。どちらもすごい人だし、父親にとっては辛い経験も含め公民権運動や福祉受給者運動の内幕的な話もおもしろいのだけれど、著者が9歳のときにその父は著者の眼の前でボートから落水しそのまま帰らぬ人となる。

著者自身も法律家として人権団体や政府の公民権擁護部門で働いたり、ブラック・ライヴズ・マター運動を報道するテレビ番組に法律コメンテータとして出演したのをきっかけにニューヨーク市のビル・デブラシオ前市長の法律顧問として働いたりと、人権派弁護士として順調に活動を続けるなか、それまで意識の外に追いやっていた、眼の前で父を失ったトラウマと向き合う。政治への関わりは本書の最後に少しだけ触れられている程度で、なんでこの本を市長選挙に出る前に出さなかったの!?と思ったけど、公民権運動のなかで育ち人権派弁護士の自叙伝として普通におもしろい。

ところで、彼女を破って市長に当選したエリック・アダムス市長はその後わけがわからないくらい多数のスキャンダルが噴出して、ちょうど今日「連邦地裁で起訴されたらしい」という報道が出ているけれども、あまりに疑惑が多すぎてどの件なのか報道が混乱しているレベル。かれが辞職もしくは失職したあと著者がもう一度立候補するつもりなら、この本はいいタイミングかもしれない。