Lisa C. Tolbert著「Beyond Piggly Wiggly: Inventing the American Self-Service Store」

Beyond Piggly Wiggly

Lisa C. Tolbert著「Beyond Piggly Wiggly: Inventing the American Self-Service Store

客が自ら店内を移動し好きな商品を手に取るセルフサービス形式のスーパーマーケットが20世紀アメリカにおいてどのように発達したか伝える本。

タイトルにある「ピグリー・ウィグリー」というのは南部を中心にかつてフランチャイズ方式で多数の店舗を展開した(現在でも規模は小さいものの存続している)スーパーマーケットチェーン。セルフサービス店舗の設計に関していくつかの重要な特許を取得したこともあり、セルフサービス店舗は同社が発明した、あるいは広めたという印象が強いが、著者はそれ以前に多数の個人経営の店舗がさまざまな形でセルフサービス形式をそれぞれ独自に考案し、実験した経緯を紹介する。セルフサービスの普及とスーパーマーケットのチェーン展開が同時に進行したために、それらは強く結びついたものだと信じられがちだが、実際に革新的なセルフサービスのアイディアを生み出したのは多数の小規模な店舗だった。

いまではセルフサービスではないスーパーのほうが想像できないけれど、かつてのアメリカの消費者は食料品を買うには八百屋や肉屋などそれぞれの店舗に出向いて店員に買いたい物を伝え、店員がそれを集めてきて代金と引き換えに渡すというのが基本だった。また電話のある裕福な家庭では主婦が電話で注文し、子どもや従者に取りに行かせたり、店員に配達してもらったりした。禁酒法が廃止されたあとは、食料品店がバーを併設することも多く、店舗に女性が近寄るのは危険だというイメージも。そういうなか、セルフサービスは人件費を節約することでより安い代金で食料品を提供するという金銭的なアピールとともに、主婦である女性が店内を自由に歩き回り好きなものを手に取ることができるという新たな女性のあり方も宣伝した。

また当時はあらゆる面で差別を受けていた黒人にとっても、店舗がセルフサービスになったおかげで店員に白人の客の後回しにされたり、わざと古くなった食料品を渡されたりすることがなくなり、限定的ではあるもののある程度の平等な扱いを受けることができた。当初のセルフサービス店舗の設計は当時のカフェテリアや工場を真似ており、入口から出口まで一方通行で店内を一周する方式になっていたおかげで、人種によって異なる扱いをすることは難しかった。ちなみに当初はショッピングカートは存在せず、両手に抱えられる以上の商品を持つことはできなかったとか、自動車工場の設計を真似して客が一箇所にいるままさまざな商品がベルトコンベアに置かれて順番に目の前に運ばれてくる形式があったなど(なにこれ面白!っておもったけど、回転寿司方式だわこれ)、など店舗やショッピングカートの設計をめぐる話も興味深い。

現在、セルフサービスどころか支払いまで自分で行うセルフレジが普及し、さらにはアマゾンの店舗に代表されるようにレジを通さなくても店内に設置された多数の監視カメラによって自動的に何をどれだけ買ったか検出して支払いを済ませてしまう店舗も登場。かつてセルフサービスが導入された時と同じように、現在でもそうした新たな方式に多くの人々は違和感を感じており、特に後者については消費者だけでなく労働者に対する過剰な監視という意味からその違和感には合理的な面があると思うけれども、新たな技術やビジネス形態に戸惑っているのは現在の人だけではないと思うと、歴史的教訓を踏まえたうえでしっかりその良い面と悪い面を考えていきたいと感じる。