Kate Lister著「Harlots, Whores & Hackabouts: A History of Sex for Sale」

Harlots, Whores & Hackabouts

Kate Lister著「Harlots, Whores & Hackabouts: A History of Sex for Sale

古代から20世紀までの世界の歴史における売買春・性売買についての本。少し前に紹介した、男装したり男性名を名乗った歴史上の女性たちについての本(Tracy Dawson著「Let Me Be Frank」)と同じく、世界史における売買春について網羅した本というよりは、歴史上のさまざまなエピソードをピックアップしてまとめた感じの本。古代メソポタミアのギルガメシュ叙事詩に登場した(そして発見当初はその部分だけ発表されなかった)神聖娼婦のストーリーにはじまり、日本の江戸時代の遊郭の話などふくめ世界各地から興味深い話が次から次へと紹介される。売買春が社会的に受け入れられていた時代・文化もそうでない時代・文化もあったけれども、過去を理想化することはなく、また社会的に受け入れられていたからといって性労働に従事する人たちの地位が高かったわけでもないことも指摘されていて、安心して読めた。

歴史を網羅した本ではないとはいえ、19世紀以降のヨーロッパやアメリカの部分はそれなりに詳細。売春を罪とみなす立場と「堕ちた女性」を憐れみの対象とみなす立場が一見対立しているように見えながら重なり合い、実際の女性たちの自由と尊厳を損ねていた様子や、売春に対するタブーが同性愛に対するタブーと密接な関係にあることなど、売買春を国家が管理するかあくまで撲滅を目指すかという議論など、性売買をめぐる現在の社会状況と共通している点も。終盤ではナチスドイツがフランス型の国家管理売春を緻密化し、違法な売春に対する処罰として女性たちが強制売春に従事させられた例なども紹介されているほか、現在「国際セックスワーカーの日」として祝われている1975年のフランスにおける性労働者による教会占拠事件など戦後の性労働者運動にも触れられている。写真も多くて楽しい本。