Jeffrey Wasserstrom著「The Milk Tea Alliance: Inside Asia’s Struggle Against Autocracy and Beijing」

The Milk Tea Alliance

Jeffrey Wasserstrom著「The Milk Tea Alliance: Inside Asia’s Struggle Against Autocracy and Beijing

香港・台湾・タイ、そして遅れてミャンマーで広がる、もともとインターネットユーザのあいだからはじまった国際的な国際民主連帯運動「ミルクティー同盟」についての本。これまでにも何冊か紹介してきたコロンビア大学出版の狭い話題について解説する短い本のシリーズの一冊。

ミルクティー同盟はもともと、インターネット上の炎上をきっかけに広まったネットミームの一つ。タイの俳優がネットで間違えて香港が独立国であるかのような表現をしたところ、中国の愛国的なアカウントから一斉に非難が集中し炎上したが、それにタイの人たちが反撃、あるいはタイを攻撃しているつもりでタイの政府や王室を叩いた中国の人たちの攻撃に便乗してタイ人たち自ら政府批判を行ったところ、同じように中国のユーザからの攻撃に晒されていた香港の民主派や台湾の人たちから共感を集め、香港・台湾・タイそれぞれで人気の(しかし中国本土では伝統的にあまり飲まれない)ミルクティーを名前に入れた「ミルクティー同盟」のミームが誕生。

中国政府と中国のナショナリズムの脅威にさらされているこれら三カ国・地域の連帯はしかしネット上にとどまらず、以前台湾で2014年のひまわり運動に参加していた人や香港で2019年から2020年にかけての国家安全維持法反対デモに参加した人たちからタイで相次ぐ軍事クーデターや王政批判に対する弾圧に反対する民主活動家に備品が提供されたり戦略が共有されるなど、さまざまな形で交流が進み、現実の政治運動にも影響を与えた。2021年にミャンマーで軍事クーデターが起きると、それに反対するミャンマーの人たちもミルクティー同盟への連帯を表明、映画「ハンガー・ゲーム」に描かれた圧政への抵抗のシンボルである3本指サインが各国の運動で共有されるなど、インターネット上だけでなく現実の民主化運動でもミルクティー同盟が意識されるようになった。その後もインドやフィリピンからベラルーシまでさまざまな国で(なかにはミルクティーがあまり飲まれない国もあったが、そこは何らかの乳製品で無理やりこじつけて)ミルクティー同盟は各国の民主化運動の象徴となっている。

ミルクティー同盟に連帯する民主化運動が起きている国は、民主的な選挙が行われている国もあれば独裁国家もあり、また選挙はあってもあまり民主的とは言えなかったり、非民主的な他国の支配を受けている国もある。タイの人々が香港や台湾の人たちに共感したのは、ただ単に軍事クーデターが頻発していることや王政批判が許されていないことだけでなく、タイに亡命したウイグル人たちをタイ政府が中国政府の要請を受けて引き渡すといったかたちで、中国の非民主的な支配が自国に及びつつあるという認識を元にしている。本書は各国それぞれの状況で危険に晒されながら民主化運動に身を投じている活動家や、そうした活動によって亡命を余儀なくされている元活動化らに取材されているが、アジアを中心にこれだけの人たちが国際的に連帯しインターネット上のユーモアと直接的な行動を連結して戦っているという事実は、もはや民主国家か分からなくなりつつあるいまのアメリカに住むわたしも少しだけ勇気づけらた。あと台湾のタピオカミルクティーも香港やタイの練乳が入ったミルクティーもおいしい。