Grace L. Williams著「Give Her Credit: The Untold Account of a Women’s Bank That Empowered a Generation」
1978年にコロラド州デンバーで設立された「女性銀行」がどのように生まれたか掘り起こす本。
1964年の公民権法によって人種差別とともに性差別が禁止されたアメリカだが、1970年代にはまだ銀行が女性を親や夫から独立した一人の利用者として受け入れることは珍しく、事業のための融資を受けることはさらに難しかった。十分な収入があっても女性個人で融資を受けようとしたら銀行員から「家で子どもを育てなさい」とたしらめられたり、女性はいつ仕事をやめるか分からないからと安定した収入は実質ゼロであり返済能力がないものとして扱われた。
こうした状況に対する不満から「女性銀行」が設立されたのはデンバーだけではなかったし、デンバーが最初でもなかったけれど、ニューヨークのように全体の割合としては少ないものの銀行業界で働いている女性もそれなりにいて、また女性の著名人たちの支援も受けられた地域と異なり、デンバーにはそもそも銀行業界で働いている女性が少なかった。女性銀行の目的を共有する男性たちの協力を得ながらも彼女たちは会合を繰り返し、主流の銀行から融資を受けられない女性やマイノリティへの融資を積極的に行うべきか、それともあくまで性別や人種で差別を避けつつ経営を安定させるために白人男性たちを顧客に取り込むかといった方針の違いから内紛を経験しつつ、ついに銀行が開業するまでの経緯が、当時の会合の記録をもとに記述される。
本書のソースの大きな部分がこうした当時の記録をもとにしており、そこに書かれている議論については詳しく書かれているのだけれど、一方そこに書かれていないことがいろいろありそうな気がする。銀行設立のために動いた人たち一人ひとりについての紹介を読む限り黒人女性が一人だけいたようだけれど、「女性」と「マイノリティ」という言葉で「白人女性」と「マイノリティ男性」だけを対象としている感じがするなか、彼女が議論に何を感じたのか、そしてほかの黒人やその他の非白人の女性たちが銀行設立についてどう思ったのか、といった点が気になる。
また、銀行がオープンしたと思ったらすぐにエピローグがはじまってしまい、その銀行が実際に女性たちの生活にどういう影響を与えたか、という話が一切書かれていないのにはちょっとがっかり。いやいや設立までの内部のゴタゴタ話より、設立された銀行が果たした歴史的役割のほうがずっと大事じゃないの?とは思うのだけれど、著者は歴史研究をしているわけではない経済ライター・ポッドキャスターなのでこれ以上のリサーチは難しかったのかも。でもまあ銀行業界によって差別されて十分なサービスを受けられなかった女性たちが自ら「女性銀行」を立ち上げた歴史がある、という話くらいは知っておいていいと思う。