Christopher Mathias著「To Catch a Fascist: The Fight to Expose the Radical Right」

To Catch a Fascist

Christopher Mathias著「To Catch a Fascist: The Fight to Expose the Radical Right

アメリカの極右運動を追ってきたジャーナリストが、ときに本職のジャーナリストより大胆な潜入調査や緻密な情報解析により極右活動家や白人至上主義者たちの正体を暴き、かれらの運動を弱体化させてきた多数の無名のアンチファ活動家たちに取材しかれらの勇気ある活動について綴った本。めっちゃ面白い。

極右白人至上主義団体の活動が活発になったのはトランプが大統領選挙に立候補し当選した2016年から。トランプ就任後の2017年にはシャーロッツビルで「右派の集結」を掲げる大集会が開催され、ヴァージニア大学の学生らを襲撃しカウンタープロテクターを車で轢き殺す事件が起きたが、その後かれら極右や白人至上主義者、ネオナチ、ファシストらは世間から白い目を向けられ、大集会に参加した団体のいくつもが解散に追い込まれた。それを後押ししたのが、潜入調査や情報解析を通してかれらの正体を暴き、かれらを社会的に追い詰めていったアンチファ活動家たちだった。

わたしが住むシアトルでも当時、ゲイバーや非白人が集まるスペースがプラウドボーイズをはじめとする極右によって襲撃されたり、武装した白人至上主義団体による脅しを受けたりしていたが、そのうち街のなかに地元に住むそうしたメンバーたちの実名と写真入りのポスターが貼られ、一般のレストランやバーなどでもそれが共有され、ファシストを追い出す動きが出てきた。そんなポスターを張り出すほどの確証があるのかどうか、思想的に極右だというだけでそのようにして社会から排除するのは正しい方法だと言えるのかどうか、わたし自身も悩んだし議論にもなったけれど、アンチファ活動家たちは体を張った活動によってかれらの正体を綿密に検証し何重もの確認を経て、実際にマイノリティに対する暴力的だったり威嚇的な行動に参加した人たちだけを厳選して標的とした。またこうした活動は現在進行系で被害を引き起こしているヘイトを止めるためのものであり、本人がヘイト行動を引退すればわざわざ追いかけてかれらの生活を破壊するような行動は取らない。

地元のファシストを知ろう、と呼びかけるポスター
(写真:地元のファシストを知ろう、と呼びかけるポスター。写真の下に本名と所属組織の名前が明記されている。シアトル・キャピトルヒル地区で2019年に目撃。)

潜入がバレると殺されるおそれすらあるなか、ファシストたちに紛れ込んでかれらがネットで使っている仮名の裏にある正体を調べ上げ、いざという時に情報を公開することでかれらの活動に最大のダメージを与えようとするアンチファ活動家たちの行動はすごい。もちろんアメリカでは過去にもKKKなど差別主義団体に潜入してかれらの正体を暴こうとした人たちはいたけれど、その多くは警察とのなんらかの協力関係にあり、犯罪の証拠を集めて警察に引き渡し司法の裁きを受けさせる、というのがパターンだった。しかしアンチファ活動家たちの多くはアナキストや社会主義者・共産主義者ら左翼であり、警察こそが白人至上主義を支える暴力集団であるという認識。わたしはアンチファの(かれら自身も問題だとは認識していてなんとかしようとしてるみたいだけど)マッチョなところが個人的には苦手なのだけれど、いざという時に警察の保護を一切期待できないまま命を張ってファシズムと戦ってきたかれらのことは尊敬できる。

たくさんの車に乗り込んでヘイト行動に出撃したファシストたちの情報をリアルタイムで仲間のアンチファにリークして、かれらが活動しているうちに駐車されていた車を全部破壊して帰還できなくした、差別的な展示物を設置するたびに情報を得たアンチファの仲間が即座に撤去させていった、みたいな痛快な逸話もあるけれど、それよりすごいのはアンチファ活動家たちがどのようにしてファシストたちの正体を明かしていったかという部分。内部通報者がいる可能性があるという認識のもと、お互い本名を明かさず個人情報を隠すように上から言われていた極右団体のメンバーたちだが、会話をしているうちに以前どの地域に住んでいた、かつて軍に参加してどこの基地に駐留していた、どんな仕事をしたことがある、という個人史から、先週末いとこが結婚したので結婚式に参加するためにどこどこに行ってきた、といおう何気ない情報を得て、それらをソーシャルメディア上の情報や軍や政府の記録などと突き合わせてかれらの正体を探っていく。

軍にいたときに当時の大統領が視察に訪れて一緒に写真を撮ったと聞けば、その元大統領の資料館に連絡し一般公開はされていない高精度の記録写真を取り寄せて大統領と一緒に写っている軍人たちの顔から該当者を絞り込み、その制服につけられた名札を読み取る。車に同乗したときにファシストの一人が自分の音楽を流そうとカーステレオにスマホをBluetoothで接続したら、カーステレオの操作画面に表示された「~のiPhone」という名前を記憶する。わたしが街でみかけたポスターの背後にこれほどのアンチファ活動家たちの苦労や尽力があったとは知らなかったし、すごいと思った。

シャーロッツビルでの暴動のあと、アンチファ活動家たちは暴動に参加した白人至上主義者たちを全員特定しようとし、実際にその大部分の正体が判明したが、2021年の連邦議事堂占拠事件・クーデター未遂では同じ手法が政府の捜査当局によっても採用され、議事堂に侵入した右派活動家たちが多数逮捕・起訴された。しかし右派メディアなどを通してアンチファの勢力や暴力性、組織的なまとまりを過大に評価する宣伝が繰り返され、少しでも極右や白人至上主義に対する抵抗をしようとするリベラルなどをひとまとめに攻撃するキャンペーンが張られるなか、その後さらに極右傾向を強めたトランプは復活し、イーロン・マスクや第二次トランプ政権の高官らは白人至上主義的な発言を隠そうともせず堂々と本名で繰り広げるようになる。そもそも極右や白人至上主義者たち自身が移民局の職員として大挙して採用され、政府の一員として法に守られつつマイノリティに対する暴力を日々ふるっているのが現在。

もともと警察権力による責任追求を目的としないアンチファ活動家たちによる活動は、差別主義者やファシストたちが自らを偽り、本性を隠し、一般社会において普通の生活をしている一般市民であるかのように振る舞っているという弱点を突いたものだった。しかし極右ファシズムや白人至上主義が隠すべきものでなくなり、そうした思想を大々的に公言しても地位や権力を脅かされることがない状況になったことで、真実を明らかにして人々の良識に委ねるというアンチファの行動はその影響力を削がれることになる。かつて(2017年)極右指導者のリチャード・スペンサーが町中でインタビューを受けている最中に仮面をかぶったアンチファ活動家によって殴られ大きな話題を呼んだけれども、アンチファの実際の活動においてそうした直接的な暴力はごく稀。しかし今となるとファシストを闇の中から引きずり出してその正体を暴くという手法が現実の脅威に対抗するのに不十分なのは明らかだし、かといってファシストを片っ端から殴っていても解決するとは思えない(政府職員の立場を得たファシストに暴力で勝てる気がしない)ので、また新たな手法が必要とされているように思う。