Dean Spade著「Love in a F*cked-Up World: How to Build Relationships, Hook Up, and Raise Hell Together」
シアトル在住のトランス男性法学者・監獄廃止論者の著者が、仲間内の人間関係の問題による不毛な対立やドメスティック・バイオレンスや性暴力などの関係性の暴力によって社会変革を求める運動が内部から崩れていった過去を踏まえつつ、お互いを尊重した恋愛や性愛的なパートナーや友人関係、親子関係やその他の家族関係など、より良い関係性を築くために考えてきたことを綴った本。
前著「Mutual Aid: Building Solidarity During This Crisis (and the Next)」で著者は、コロナウイルス・パンデミックで注目を集めた、危機的状況における相互扶助が慈善事業や福祉制度とどのように異なるのか分析し、その歴史的系譜と革命的な可能性を論じた。本書もそれに続いて、普段からコミュニティのレジリエンスを補強することが危機的状況への対応や社会変革を目指す運動の成功につながることを論じ、さまざまな提言を行う。
人間関係についてのアドバイスを提示する本なら書店のセルフヘルプの本棚に行けば既にたくさん出版されているけれど、それらの多くは異性愛主義や恋愛至上主義、カップル主義などを前提としていたり、はっきりそうと書かれていなくても白人中流層の読者を想定していて、クィアやトランスの人たちや非白人の読者が生きる現実が無視されている。またそれらはあくまで既存の社会において個人がどう適応するかという課題に応えようとしており、コミュニティのエンパワーメントや社会変革への射程が欠けている。それにしても大した人生を送ってきた自覚もないのに人間関係についてアドバイスをするとかわたしには無理だなあと思うんだけど、著者もわたしもそろそろ人生についてのアドバイスをしなくちゃいけない年齢なのかと正直ビビった。
著者のディーンとわたしは20年以上前からの友人で、地元の運動のさまざまな場面で見かける仲間でもある。だからというわけではないと思うけど、序章でオードリー・ロードやマリアム・カバらすごい人たちの名前と並んでわたしが「これらのライターたちから学んだ」として6人のうちの1人として挙げられていた。いやわたし、本書で書かれているようなこと書いたっけ?あんまり思い当たらないのだけど。