Andrew Yang著「Forward: Notes on the Future of Our Democracy」

Forward

Andrew Yang著「Forward: Notes on the Future of Our Democracy

2020年大統領選挙で民主党予備選に出馬して台風の目となりベーシックインカムの認知度向上を果たしたかと思うとニューヨーク市長選に立候補して落選、そして民主党を離党して新たにフォワード党を立ち上げたアンドリュー・ヤンの新著。実際に選挙に立候補して各地をまわった経験から書かれた政治やメディアの内情についての部分はとてもおもしろい。この本の主軸である民主主義を取り戻すための提言は、ヤンが立候補したニューヨーク市長選でも採用されている「優先順位付投票制」(RCV、説明こちら)を各州に広めていくべきだ、という主張をふくめ、珍しいものではない。かれが大統領選挙を利用してベーシックインカムの考え方を広めたように、第三党の設立によってRCVの知名度を高めようとしているのかな、と思っていたけど、とくにそういう工夫は見当たらない。二大政党制が根付いている米国においてRCVかそれに類似した選挙制度改革なしに第三党の躍進はありえないので、これまでも「緑の党」やその他の小政党はRCVを推進してきたけれど、フォワード党がそれらの試みとどう違うのか明らかではない。

選挙におけるヤンの最大の弱点は、アジア系というマイノリティ出身でありながら白人からの支持が高く、黒人やラティーノからの支持が低い点だった。この本でもいちおうジョージ・フロイド氏殺害や警察による市民への暴力に触れるものの、それらを単純に警察のアカウンタビリティという論点のみから論じ、米国社会が人種差別を克服するために何が必要か、という視点からの提言はなかった。むしろかれ自身が人種差別的な攻撃を受けた際にそれを受け流して許した例を挙げるなどして、差別を見て見ぬ振りすることを推奨しているように見える。それが功を奏して白人の、特にかれでなければトランプに投票しかねない層からの支持を集めたことはたしかだけれど、かれが今後も影響力を持つとするならずっと批判を受けそう。