Alia Dastagir著「To Those Who Have Confused You to Be a Person: Words as Violence and Stories of Women’s Resistance Online」

To Those Who Have Confused You to Be a Person

Alia Dastagir著「To Those Who Have Confused You to Be a Person: Words as Violence and Stories of Women’s Resistance Online

ドナルド・トランプの息子ドンJr.にツイッターで記事の内容を捻じ曲げた要約を書かれ大勢の右翼やQanon支持者らからの嫌がらせや脅迫を受けたジャーナリストが、インターネット上で暴力的な攻撃を受けた多数の女性たちの経験とそれをどう彼女たちが生き延びたか取材した本。タイトルは著者のことを「人間ではない」と描写した嫌がらせメールから取られている。

こうした嫌がらせは以前からもリアルの社会で声を上げる女性たちに対しても行われていたが、インターネット上ではその規模と拡散のスピードが大きく拡大した。また性暴力をほのめかすような言葉を投げかけるだけでなく、実際に被害者の住所や写真をネットに載せたり、イラストやディープフェイクを使った偽画像などで被害者の性的な描写を拡散したりどのような性行為を強要したいか表現したりする人もいて、ネットの嫌がらせと現実の境界もあやふやになりがち。女性の政治家やジャーナリスト、性暴力や人種差別を告発する女性、ただネット上で自分のことを隠さず書いているだけのトランス女性などがその標的になり、そしてそれ以上の多くの女性たちが同じような攻撃を受けることを恐れネットでも実社会でも発言を避けるようになってしまっている。キャンセル・カルチャーを批判する右派論者らは人種やジェンダーについてタブーに触れて批判を受けることを恐れて保守派が自己検閲を強いられている、と主張するけれど、本当に自己検閲を強いられているのは批判どころか性暴力を含む暴力的な脅しによってアカウントを消したり発言をやめたりさせられている女性たち、とくに性差別だけでなく人種差別にも晒される非白人女性や、存在しているだけで攻撃対象となりクロゼットに押し込まれているトランス女性たちの側。本書

警察やカウンセラーなどにこうした問題について相談しても、「嫌ならネットを見なければいい」「あいつらは愉快犯なんだから相手をするだけ向こうの思うツボ、黙ってブロックするなり報告するなりしてあとは無視するのが最善」とアドバイスをされてしまう。もちろんそうした対策を取ることが本人の心を守るために必要なこともあるけれど、そういった嫌がらせに何のおとがもないまま被害者の側が泣き寝入りを強いられるのは明らかに不公平。また被害を受けた女性のなかには、そうした攻撃を受けることに慣れてしまってもう何を言われても気にしない、と言う人もいるが、慣れてしまうほどそうした状況に置かれ続けることのストレスがほかの形で心身の健康を害していないとは限らない。加害者に公に反論したり自分のフォロワーに見せてかれらに反論してもらうという手法を取る人もいて、嫌がらせを放置しないという点では望ましいが、ソーシャルメディアのアルゴリズムが元の嫌がらせ発言を「このポストや投稿者は多数のエンゲージメントを集めている」と判断してさらに拡散させるおそれもある。

性的なものを含むネット上の嫌がらせを受けた女性たちが取る対処には、たとえば政治家やジャーナリストのように実名でアカウントを運用する必要がありそれなりにフォロワーもいる人とそうでない人では取れる手段に違いがあるように、さまざまなパターンがある。どれが正しいというわけではないけれども、一人で対処しようとしない、また被害者を孤立させない、というのはとても大切。著者は右派によって激しい攻撃に晒されているときにある読者から「この記事を書いてくれてありがとう」というメールが来たことに救われた、というエピソードを書いていて、そういうのってとても大事だなと思った。

終盤では、被害を受けている女性たちがどうお互い支え合うか、その他の人たちもどう彼女たちを支援するかといった話でほんの少しだけ希望を感じさせる。著者と同じく女性ジャーナリストとして活動した結果激しい嫌がらせを受けたNina Jankowicz著「How to Be a Woman Online: Surviving Abuse and Harassment, and How to Fight Back」やTalia Lavin著「Culture Warlords: My Journey into the Dark Web of White Supremacy」とともに是非。