Sarah Weinman著「Without Consent: A Landmark Trial and the Decades-Long Struggle to Make Spousal Rape a Crime」

Without Consent

Sarah Weinman著「Without Consent: A Landmark Trial and the Decades-Long Struggle to Make Spousal Rape a Crime

婚姻関係にある夫婦間のレイプを犯罪として扱うような法的・社会的な変化がどう生まれたのか、その変化に大きな影響を与えたオレゴン州の地方裁判所で1978年に判決がおりた裁判を中心に解き明かす本。

Oregon v. Rideoutとして知られるオレゴン州マリオン郡地方裁判所で行われた刑事裁判は、同居している夫婦間のレイプがはじめて犯罪に問われた事件だった。夫婦間のレイプを犯罪として扱う法律を成立させたのはオレゴン州が最初ではないし、法的に婚姻関係にある夫婦のあいだで起きたレイプで罪に問われた人も過去にはいたけれど、それらはすでに別居して離婚の準備を進めている中で起きたケースなど。それに対し本件の被告とされたジョン・ライドアウト氏は同居中の妻グレタ氏に対するレイプを告発されたという点で珍しく、メディアによって騒ぎ立てられた。

当時のアメリカは既に妻が夫の所有物のように扱われた時代ではないにせよ、婚姻関係にある妻は夫の性的要求に応じる義務があり、したがって夫による妻のレイプなんてありえない、それが嫌なら離婚を求めろ、という常識が横行していた。裁判では被告であるジョン氏には黙秘権が認められる一方、証人であるグレタ氏は過去の性遍歴や性暴力被害の経験について掘り下げられ、メディアでは彼女の信憑性を疑うような記事が載る。

裁判ではジョン氏の「合意があった」という主張を覆すことができず陪審による無罪判決が下り、グレタ氏はかれと離婚することに。その後かれらがよりを戻すと「やっぱりただの夫婦喧嘩だったんだろう、騒がせやがって」といった中傷も広まる。しかしそれから約40年近くたった2010年代にジョン氏は複数の他の女性たちから性暴力の告発を受け、有罪判決を受ける。1978年の裁判では無罪放免となったけれど、グレタ氏のもとには同じように夫による性暴力を受けていた全国の女性たちから応援と感謝の手紙が集まり、夫婦間のレイプを合法としている例外規定を廃止する動きが広まった。1990年代にはすべての州の法律から、夫婦間のレイプを刑法の例外とする規定は廃止されている。

わたしは1990年代から2000年代にかけてオレゴンに住んでいたし、オレゴンで反性暴力の活動に参加していたけれど、こんな裁判があったことも、オレゴンの一人の女性が声をあげた結果、彼女自身はメディアや司法に傷つけられながらも全国におよぼす大きな影響をもたらしたことは知らなかった。現代の反性暴力運動の視点からは、「性暴力を深刻な問題として扱う」ことは必ずしも「犯罪として扱い加害者を刑罰に処す」ことと同じではないと考えるし、むしろ刑事司法制度そのものが性暴力を引き起こし深刻化させること、最大限うまくいったとしても被害者が本当に求めている解決を刑事司法制度はもたらさないことを問題として扱っているけれど、社会的・法的な保護を求めたグレタ氏や当時のほかの女性たちの訴えにはとても納得がいく。

最近でも、夫とその夫が手引きした数十人の男性による性暴力を告発したフランス人女性ジゼル・ペリコ氏の訴えによりふたたび夫婦間性暴力が注目を集めている。サバイバーが勇気をふるい絞って告発するのはカッコいいと思いつつ、サバイバーが勇気をふるわなくても必要な支援を受けられ、性暴力を抑止しまた既に犯行に及んだ加害者の再犯を押し留める社会を求めたい。