Ian Garner著「Z Generation: Into the Heart of Russia’s Fascist Youth」

Z Generation

Ian Garner著「Z Generation: Into the Heart of Russia’s Fascist Youth

プーチンが権力を握ってから20年以上たち、物心が付いた頃からプーチンやその周辺が進める権威主義的なナショナリズムの影響を受けて育った世代のあいだで広がる新たなファシズムについての本。いろいろおそろしいけど、現在進行系のイスラエルによるガザ侵攻や、それを支持するアメリカの世論を見ていると、ロシアに限った話ではないような気もする。

著者はロシアに詳しいライターで、本書はたくさんのロシアの若者に取材して書かれている。それまではソーシャルメディアでダンス動画を投稿したりしていた普通の若者がウクライナへの本格侵攻をきっかけにウクライナ人を人間以下の存在へと貶めるミームを次々に拡散するようになった経緯をタイムラインを追って確認したり、ホモフォビアに苦しんでいたゲイの若者が自分のなかでナショナリズムと同性愛の折り合いを付け抗議活動をする活動家たちと距離を置く様子を紹介するなど、ロシアの若者たちのさまざまなあり方から、一見ボーイスカウトみたいな愛国軍予備隊を設立して幼いうちからエスノナショナリズム教育と軍事訓練を行うといった政府による組織的な取り組みまで、比喩でなくほんとうのファシズムが広がりつつあるだけでなく、それ以外の時代を知らない世代が増えつつある事実に驚愕する。

プーチンもいつかは死ぬし、ロシアはいつかは(完全に併合できない限り)ウクライナから撤退する。しかしファシズムの中で育ったロシアの若者たちは残り、今後のロシアを動かしていくことになる。冷戦終結後のロシアに資本主義と民主主義を広げようとして一度失敗した欧米は、そうした若者たちが指導的な立場についたあとのロシアとどう向き合っていくか、という議論をするなかで、著者はどうも「どうやってかれらを支えて民主的な世界システムに復帰させるか」といった考え方をしているようなのだけど、そんな甘い方向に進まないような気がする。いやもう正直、いまはイスラエルのことだけでうんざりでロシアの今後なんて考えられないんだけど。