Toby Stuart著「Anointed: The Extraordinary Effects of Social Status in a Winner-Take-Most World」

Anointed

Toby Stuart著「Anointed: The Extraordinary Effects of Social Status in a Winner-Take-Most World

社会における富や権力の格差が拡大しつつあるなか、個人の能力や資産とは区別された「ステータス」のはたらきについて論じる本。タイトルの「anoint」はほんらい、宗教的な儀式をとおして国王や聖職者を選び権威を付与する仕組みを指す言葉だけれど、本書は社会一般においてステータスがそれを持つ者から持たない者に分け与えられるプロセスを指して使われている。

ステータスとは、社会においてなんらかの地位を認められた人やモノが、認められているというだけの理由でさらなる評価を受けやすくなる仕組みのこと。たとえば賞を取った有名作家の本はそれだけで売れるし、その結果さらなる読者を獲得して評価を得る。その作家がこんどは書評を書いたり文学賞の審査員となってさらに自身のステータスを向上させるだけでなく、別の新人作家を評価したり知り合いの編集者に紹介するなどして、自分が選んだ人にステータスを与えることもできる。しかし一方で、どんなに良い本を書いても有名作家や編集者の目に留まらなければ本を出版することもできず、日々の生活のために執筆を断念することも。

当初のステータスが実力によるものであれ、コネや幸運・人種や性別など社会的属性による有利さによるものであれ、ステータスを得た人はその恩恵でさらにステータスを向上できるとともに、それを自分が選んだ人たちに分け与えることもできる。そうした人たちに選ばれるためにはかれらの目に付く必要があるわけで、そのチャンスは生まれ育った国や地域や社会階層や与えられた機会によって不平等。このようにステータスは資産と同様に不平等がさらなる不平等を引き起こすメカニズムとして機能する。

本書はステータスが不平等を拡大させるメカニズムを批判的に考えながら、それが現代社会がもたらした複雑さを軽減させるために必要とされている理由についても触れる。ステータスを無視した場合、毎日数え切れないほど発表される本や音楽、研究論文、商品などのうちどれを消費すればいいのか分からないし、大勢の求職者のうち誰を面接に呼べばいいのか判断が難しい。ステータスには人々が直面している膨大な選択肢を対処可能なレベルまで単純化するはたらきがあり、それなしに現代社会は成り立たない。資産の不平等(の拡大再生産)に対しては再分配という解決策が(理論上は)あるけれど、ステータスの不平等についてもなんらかの対処を考えないといけない。

最後には人工知能を採用した才能やビジネスの囲い込みが既存のステータス・バイアスを学習してその強化に加担する危険とともに、アルゴリズムによる不平等の拡大を止めるためのAIシステム精査とそれを義務付ける法制度の必要制にも触れている。また、ステータスが現代社会の複雑性がもたらす無限の選択肢を減らすために存在するのだとすると、AIが個人の趣味嗜好を学習することでステータスに頼らなくても本人が求める選択肢を提供できるのではないか、たとえばその人個人にとってはロマネ・コンティより価値がある好みの味のワインが見つかるようになるのではないか、という話も書かれているけど、正直ちょっと(というか、かなり)疑問。てゆーかステータス以外にロマネ・コンティを飲む理由なんてありますか?そもそも飲むものじゃなくて所有するものでしょ?(暴論x2)