Omekongo Dibinga著「Lies about Black People: How to Combat Racist Stereotypes and Why It Matters」

Lies About Black People

Omekongo Dibinga著「Lies about Black People: How to Combat Racist Stereotypes and Why It Matters

反レイシズムのベテラン活動家・教育家として知られる詩人・ラッパーが、自身の詩やリリックを混ぜつつ黒人に対する嘘やステレオタイプの根源を掘り起こしその深刻な影響を批判する本。

本書が取り上げるのは、アフリカの文明についての嘘からはじまり、奴隷制の歴史と結びついた黒人の勤労意欲や能力の欠如という嘘、暴力的な犯罪者だという嘘、福祉依存の嘘などから、いま政治的な扇動の道具となっている「批判的人種理論という白人差別の思想が公教育や政府・企業によって広められている」という真っ赤な嘘まで、まあそのとおりだなあとしか思えないのだけれど、ところどころ挟み込まれる詩やリリックがいいアクセントになっていて読みやすいので、反黒人主義について学ぶ入門書としては良いと思う。各章の終わりには、黒人以外のさまざまな背景の人たちのインタビューが掲載されていて、自分は黒人たちについてどのようなことを学びながら育ったか、そしてどのようにしてその間違いに気づき、反レイシズムに目覚めたのかという体験談が語られており、その点でも反レイシズムの入門書として役に立ちそう。

著者は非白人を指す「people of color」やより最近の「BIPOC (Black, Indigenous, or people of color)」という表現について、白人でないというだけでひとまとめにするのは個々の経験を無視していておかしい、白人を中心に考えすぎだ、という理由から反対していて、たしかにそれらの言葉の雑な使われ方が目に余るとはわたしも思うのだけれど、それらの言葉はレイシズムに対抗するさまざまなグループの連帯のためにも使われており、特に後者は奴隷制を起源とする反黒人主義や移住植民地主義をジェネリックな「人種差別」と一緒にしてはいけないという意識から使われだした言葉だけに、否定しすぎな気がする。まあこれは「LGBT」とかも同じで、連帯のために使われていた言葉が単なるごちゃまぜの言い換えになってしまって、メディアなどで一人の人を指すのに「LGBT」とか「BIPOC」とか連帯集団の呼称を使う例が多いから、分からないではないのだけど。

しかし、著者が教えている授業の初日、講師のプロフィールに「ラッパー」と書かれていたからといってかれがドラッグディーラーなのかどうか聞いてきたというアメリカン大学の学生、いくらなんでもアホすぎるだろ…