Larissa Zimberoff著「Technically Food: Inside Silicon Valley’s Mission to Change What We Eat」
世界人口の増加と中流化や気候変動の影響など将来の食糧生産・流通が危惧されるなか、それらの問題を解決しつつ大儲けを狙っているシリコンバレーのベンチャーやその他の企業が進めている新しい食糧生産技術についてレポートしている本。海藻や菌類などの新たな加工技術から、高層の建物を使った垂直農法による工場農業、そしてもちろん最近話題の植物由来の「肉」製品や動物を経ずに細胞分裂で作られた食肉生産(「Billion Dollar Burger」参照)などを紹介しているが、それらの研究をすすめる企業経営者たちに著者は一貫して厳しい質問をぶつける。幼いころ1型糖尿病の診断を受け、自分が食べるものに常に気をつけて来なくてはいけなかった著者は、新たな食品加工技術の多くが企業秘密で隠されていることを指摘し、安全性や環境負荷についての企業の言い分を鵜呑みにしない。新しい食品加工技術に懐疑的なスタンスを取りつつ、同時に世界中の人たちを飢えさせないためには工業的な食糧生産が不可避であることも踏まえていて、それらの技術についてより知りたいという欲求に繋がっているように見える。
最終章は食について一家言ありそうな著名シェフや活動家などさまざまな人たちに「20年後の食卓はどうなっていると思いますか?どうなってほしいですか?」と質問した回答だけで構成されていて、多種多様な意見が紹介されていておもしろい。本のまとめの章に著者自身の文章がまったくないというのも珍しいけれど、それだけ著者自身も迷っているのかもしれない。こうしたらいい、という一律の回答を見せられるよりはいいかも。