Jewher Ilham著「Because I Have to: The Path to Survival, the Uyghur Struggle」

Because I Have to

Jewher Ilham著「Because I Have to: The Path to Survival, the Uyghur Struggle

2014年から中国政府によって収監されているウイグル人経済学者の娘で、アメリカから父親やその他のウイグル人の釈放を求める活動を続けている著者の本。

父のイリハム・トティ氏は、かれが投獄されるまでの10年間に発表した文章をまとめた「We Uyghurs Have No Say: An Imprisoned Writer Speaks」からも分かる通り、漢人とウイグル人の相互理解と共生を信じ、中国の法制度の内側で保証されているはずのウイグル人の権利を現実化しようとした穏健派。かれが分離独立主義を画策したという虚偽の疑いで逮捕されたのは、アメリカのインディアナ大学に一年間の客員教授として招かれたかれが娘を連れて渡航しようとした空港でのことだったが、娘の安全を危惧したかれは娘にそのまま飛行機に乗るよう告げ、いらい家族との連絡が取れなくなってしまった。

そうして渡米した著者は、インディアナ大学や父の友人で同大学でチベット研究を行っているアメリカ人研究者の支援を受けながらインディアナで生活をはじめ、なれない言葉や生活に苦労しながらも、父親の釈放を求める活動をはじめる。当時はまだ中国政府によるウイグル人の大規模な強制収容が知られる前で、中国に住んでいた頃から一家は政府の監視員が家に寝泊まりしたり移動についてきたりするなど監視対象にはなっていたものの、独立派でも過激派でもない父親が政府に投獄されたのはなにかの間違いだという気持ちが強かった。彼女のもとには同じように家族を拘束されたウイグル人の亡命者や活動家たちから支援の申し出や逆に申し込みが殺到したが、そうしたウイグル人たちと彼女が交流することで中国政府に「あいつの娘は独立派や過激派と関係がある」と思われるのが不安だったので、かれらから距離を置いていた。

著者が父親の釈放を求めるだけでなく、ウイグル人の解放を求める活動をはじめるのは、Gulchehra Hoja著「A Stone Is Most Precious Where it Belongs: A Memoir of Uyghur Exile, Hope, and Survival」やNury Turkel著「No Escape: The True Story of China’s Genocide of the Uyghurs」にも書かれているような中国政府による大規模な強制収容とジェノサイドの政策がメディアで報道され次第に明らかになったあと。本書は娘として父親の釈放を求める活動をするなか、父の投獄が単なる間違いや例外的な事例ではないことを知った著者が、人権活動家としてより公に発言するようになった経緯とその活動を記録している。